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クラフトビールは次のスタートアップか?

先日の投稿『もう一度行きたい、イギリス片田舎の理想のTaproom』では、自分がイギリスに住んでいた頃の近所にあった最高のTaproomを備えたMagic Rock Brewingを紹介しました。末尾に「ショッキングな出来事が」と書きましたが、今回はその出来事と自分なりの考えを紹介します。

前回、Magic Rockの記事を書くにあたって調べるためにWebサイトを訪れるとそこには目を疑うような驚きのニュースがありました。ニュージーランドとオーストラリアのワインを中心にしたアルコール飲料メーカーのLion社がMagic Rockの株を100%買収したというのです!(Lion社:https://www.lionco.com

これのどこが大事件なのか?・・・自分はクラフトビールの味そのものもさることながら、その文化を愛しています。修士論文を書くにあたってイギリスのクラフトビール文化の調査をしていく中で、当時(2018年)もっともホットな話題は「クラフトブルワリーの自主性」でした。クラフトビール系の論文には100%間違いなく引用出展される有名なアメリカのクラフトビール協会(Brewers Association)の「クラフトビールの定義」によるとクラフトビールの3つの要件のうちの1つが「独立性」になります。

はじめは、自分もこの「独立性」の重要性を理解できていませんでした。しかし、調べると分かってきたのです。クラフトブルワリーたちは、みんな「仲間」であり「同志」なのです。ビジネス上のライバルがいるとすれば、バドワイザーやカールスバーグのような大量消費型のメガ・ブルワリーで、彼らが世界中に巨大な資本をベースにしたマーケティングキャンペーンとともに売りまくってる(小便のような)ビール市場をひっくり返すことがいわば究極の目的なのです。それなのに「途中でお金に目がくらんで大手のビールメイカーに買われることを良しとするなんて、なんたることだ!?見損なったぞ!!」と言うのが、主な議論でした。面白いことにcraftyという単語には「ずるい、悪賢い」という意味があって、皮肉を込めて彼らは大手に買われていったCraft BreweryをCrafty Beerなんて呼んでいました。

そして、我が国、日本では明確な「クラフトビールの定義」がないのを良いことに、キリンやアサヒなどの大手ビールメーカーが「クラフトビール」と堂々と缶にプリントして大手を振って販売している有様(BAのクラフトビールの定義のもう1つの要件は「小さい」こと)。特にキリンは「日本のクラフトビールを牽引する」みたいな発言をしていたり、よなよなエールで有名なヤッホーブルーイングさんや、アメリカの大手のクラフトブルワリーを買収したりしており「許せんやつだ!」と義憤にかられたものです。
*ちなみに、今回のLion社もキリンの子会社。
*ちなみに、上記の理由からよなよなエールはアメリカやイギリスの基準ではクラフトビールではありません。

そんな買収劇が、Magic Rock Breweryにも及んだか!?と言うのがまず、驚きでした。Huddersfieldの田舎町に工場を1件構えているだけの小さな規模(買収時は従業員45人)の醸造所が標的に!?正直、一抹の悲しさはありました。いわば、自分だけが知っていると思っていたインディーズバンドが、少しずつ売れていくのは嬉しかったけど、メジャーデビューしてどかーんと宣伝してもらっていきなり武道館とかやり始めると醒めちゃう謎の症状に似ています。しかし、ふと冷静になると、もしかしたら、いや、かなりの角度で、中目黒でMagic Rockのビールを飲めたのはこの買収劇に起因しているのではないか?と思いました。Magic RockのFounderは(当然、ファンの間で論争になるだろうから)非常に分かりやすく未来を向いた声明をWebサイト上で発表していました。

曰く、2人で創業し45人の従業員とともにやってきたけど、どんどん進化していくクラフトビールの世界においてMagic Rockが次のステップに行くには、より多くの人に知ってもらい飲んでもらう機会を持つしかない、そのための買収劇とのことです。自分は、この発言には一定の理解はできます。そして、気がついたのです、それってものすごくスタートアップ的なのはないか?と。

大手広告代理店から小さなベンチャーキャピタルに転職して3ヶ月になりますが、日々接しているスタートアップ企業の世界観と、クラフトビールの世界観は、似ているなと感じます。Magic Rockもいわば創業8年目のタイミングでexitしたわけです。しかし、ここでスタートアップとの違いにも気がつきます。クラフトブルワリーを買ったりお金を入れているのがほぼ全てのケースで大手のビールメイカーであり、いわば同業者なのです。それでは、スタートアップがGAFAを目指すように、クラフトブルワリーがバドワイザーやキリンビールを目指すことは難しいです。逆に言えば、クラフトブルワリーにベンチャーキャピタルがお金を入れれば良いのではないでしょうか?調べてみると、米国では既にそれなりにその市場も存在しているようです。しかし、まだエンジェル投資家として自分の好きなブルワリーに投資したり、クラウドファンディングで好きなブルワリーを応援したりと個人ベースの形が盛んでもあるようです。そこにはやはり、プロの投資家にも「どのビールが当たるかなんて分からない」という舌を使った投資判断のむずかしさはありますよね。

先日、『クラフトビールの夢、同乗させてください』というエントリにも書いたように、自分はクラフトブルワリーを急速成長させるお手伝いをしたいと、強く想っています。ベンチャーキャピタルで学んでいるスタートアップ企業の成長のノウハウやマーケティングの勝ちパターンは、クラフトブルワリーの成功にも応用できるんじゃなかろうか?と真剣に考えています!

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