◤作業療法士◢ 人生を一緒に考えさせていただくお仕事。[#25]
わたしの仕事は作業療法士。
名前が似ている「理学療法士」との違いを説明するのもややこしい(億劫なw)ので、他人に説明する時は「リハビリの仕事です」と言っている。
作業療法士って?
「作業療法士」とは国家資格である。そして、『理学療法士及び作業療法士法』という法律で「作業療法」とは何かが定義されている。
また、この法律とは別に、「日本作業療法士協会」が新たに定義したものは以下の通り。
そもそも作業って?
何だか難しい言葉が並んでいるが、生きていく上での(意味のある、価値のある)行為は全て「作業」である。
朝起きてから、身支度(洗顔、歯磨き、トイレ、着替え、メイク)や食事も、通勤(歩行、電車に乗る)や仕事も、帰宅後の料理や買い物、掃除、入浴も、余暇も全て「作業」。
わたしが働いている場所
わたしが今働いているのは、病院の回復期病棟と呼ばれる場所。
発症して救急車で運ばれてから治療を受ける期間を「急性期」といい、寝たきりにならないような介入も大切だが、とにかく全身状態が安定するよう「治療」が優先される。
そして、全身状態が安定し、「リハビリに専念するぞ!頑張るぞ!!」の段階が「回復期」。リハビリテーション病院や回復期病棟と呼ばれる場所に移る。
わたしは以前リハビリテーション病院に勤務しており、現在は様々な病棟がある病院の、回復期病棟で働いている。
急性期の入院期間は2週間ほどであるが、回復期の入院期間は長くて6ヶ月。一年の半年以上を病院で過ごすことになる。
学生時代に回復期病棟で実習させていただき、一人ひとりの患者様に長い期間向き合う「回復期」でのお仕事に魅力を感じた。
リハビリテーションは「リ」ハビリテーション
リハビリテーション(rehabilitation)は“re”-habilitation。
habilitationとは、ラテン語で「適合」が由来。
そこに“re”を付けると直訳では「再び適合させる」となるが、いわゆる「元の能力を獲得する」「元の状態に回復する」という意味になる。
※ちなみに、先天的な障害や幼少期からの障害に対し、持っている能力を生かしてさらに発達させる治療のことは「リ」を付けず、「ハビリテーション」という。(※「障害」の表記については、今回は触れないでおく)。
“元の状態”とは
作業療法士として働いて9年。この言葉に悩まされ続けている。
わたしが担当させていただく患者様は、ほとんどが「脳梗塞」や「脳出血」、「くも膜下出血」、いわゆる脳卒中を発症された方である。
脳が障害されると、手足に麻痺が残ったり、感覚が分かりにくくなったり(または全く分からなくなったり)、言葉が喋りにくくなったり、記憶力や注意力が低下するなどの症状が出る場合が多い。
これらの症状が回復する方もいれば、その後ずっと残る方もいる。
リハビリテーションは魔法ではないし、現代の医学を以てしても、全ての後遺症を完全に回復させることは困難である。
そんな現実に直面する度、「リハビリって何なんだろうか」「リハビリの意味って」と疑問を抱いたり無力感に苛まれる時がある。
人生を一緒に考える
発症するまでバリバリ働いていた方、主婦をされていた方、趣味を謳歌していた方、様々な方の人生が、ある日突然一変するのである。日常が奪われるのである。
患者様が口を揃えて言う言葉が「まさか自分が…」。
患者様が入院できるのは最大6ヶ月。
その間で退院後の生活を具体的に考えていく。
働いていた方は仕事をどうするの?
家事が必要な方は?
趣味は?
そもそも住んでいた家で生活出来るの?
前に述べた通り、生きていく上での(意味のある、価値のある)行為は全て「作業」である。作業療法士は理学療法士や言語聴覚士と協力し、患者様や家族様、ケアマネージャーなどと一緒に考えるのである。
・どうしたら玄関の上がり框を登れる?廊下を移動できる?手すりは付けられる?福祉用具が必要?
・トイレで排泄できる?
・使っていた包丁で切るのが難しいなら、こんな工夫や代替手段もありますよ
・買い物はどうやって行く?今なら配達してくれるサービスもありますよ
・通所サービスや訪問サービスではこれが利用できますよ
など、様々な案を提示する。
夢物語ではなく、当然現実的な話をしなければいけない。
この先、数年、十数年、何十年と続く人生を考えさせていただくことは、怖さもあるが、やりがいもある。
Restartのピストルを鳴らす仕事
わたしと患者様との直接的なつながりは退院されると終わってしまうが、患者様の人生は退院されてから、始まる。
患者様の人生を生きるのは、患者様自身。
そのスタートラインに立つお手伝いをさせていただくお仕事。それが作業療法士だ。
どんな仕事でも、巡りめぐると全ての人々のためになっている。
しかし、他人の人生をこれほどまでに深く、直接的に考えられる仕事は、あまり多くないのではないだろうか。
退院される患者様や家族様からは、何度も「ありがとう」と声を掛けられる。
こちらこそ「ありがとうございます」という想いでいっぱいである。
サポートありがとうございます。 お一人おひとりのサポートが活動の励みになります。 その思いを返していけるように。次に渡せるように。