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吉祥寺三丁目の夕日 3.ディープだった近鉄ウラと悪ガキたち

 前回に続き、あの映画の1シーンのような、夕日に輝く昭和の吉祥寺と、現代をワープしながら、生まれ育った街、吉祥寺をご案内します。

 今日、スポットを当てる吉祥寺「近鉄ウラ」という地域をご存じの方は、すでに吉祥寺通と言えると思います。まずは、簡単にご紹介を。今は吉祥寺大通りにそびえるヨドバシ・カメラは、以前、近鉄百貨店の建物でした。吉祥寺の大型百貨店としては、丸井、伊勢丹、東急等に続いて進出しましたが、比較的、高級路線をとっていたこともあり、ユニークな個人商店に押されて早めに撤退してしまいました。その後、三越と大塚家具の時代を経由し、現在のヨドバシ・カメラとなりました。その近鉄百貨店の裏側にあった地域を、地元では「近鉄ウラ」と呼んでいたのです。

怪しかった近鉄ウラ


 この近鉄百貨店があった頃、この裏通り周辺は、キャバレーやラブ・ホテルが多く軒を連ね、けっこう怪しい地域でした。表側の大通り(吉祥寺大通り)は、今でこそメインストリートですが、これができる前は、バス通りだった駅前通り(今のサンロード)と、名店会館(今の東急百貨店の場所)周辺が中心街だったため、こちらは、まだ東のはずれでした。ところが、この大通りができて(「1.プロローグ」で書いたように、ここは70年代前半に開通した新しいバス通り)、「近鉄ウラ」は、いきなり中心街近くとなり、元はハズレだった地域に、キャバレーやラブ・ホテルが増殖して行きます。 
 ですから見方によっては、中心街の近くにこういった店が増えたというより、「自然に(勝手に)中心街が、やって来(やがっ)のかもしれません。

今や中心街、吉祥寺ヨドバシ「前」。この裏が、いわゆる「(旧)近鉄ウラ」

 このため私が小学校の頃は、吉祥寺周辺のPTAのお母さんたちが、子供に絶対にこの地域に近づかないよう注意すると共に、アブナイ業者に対して追放運動などを繰り広げていました。ただ、当時、人気番組の「11PM」はともかく(?)、「8時だよ!全員集合」まで、子供に不向きな番組とされていたので、我々、悪ガキたちとしては、そんなにアブナイのか?と大いに疑問を持っていました。しかし何しろ仲間のお母さんたちが時には見張りをしていたので、近づくと一発でバレてしまい、なかなか近づけませんでした(しかし、その裏通りを「走り抜けてきた」と豪語する勇気ある?悪ガキもいました)。 

武蔵野市の攻めの対策

いわゆる「近鉄ウラ」にできた武蔵野市立吉祥寺図書館

 さらに武蔵野市は、図書館の近くには風俗店を作れないことを利用し、この地域に市立吉祥寺図書館を建設するなど、攻めの対策を行いました。これらが功を奏し、今は、雰囲気も変わって、普通に「ヨドバシ・ウラ」と呼ばれるようになったのです。今でもヤバ目の店が点在していますが、最近は、うまく仕分けされていて、私のお気に入りのカフェやレストランも、この地域に少なくありません。犯罪が起きてしまっては困りますが、苦難の歴史をたどって来た街だからこその「味」もあります。戦後の闇市から立ち上がった駅前のハモニカ横丁も、その歴史ならではの魅力が溢れています(スペースの関係もあり、ここではあまり深入りしません)。

今のハモニカ横丁(白黒にすると、まるで「昭和」)

親から子へ

 
当時、親の目を盗んで「近鉄ウラ」を興味本位でのぞき込んでいた吉祥寺の悪ガキ達は、今は親となり、自分の子供と共に、引き続き、この地域で暮らしている仲間も多くいます。子供の小学校の運動会に行くと、親の同窓会のようです。ですから、ヤバそうな所は、だいたい親から子へ伝えられています。これが吉祥寺のような小さな街のいい所で、子供たちは、こうやって危険を察知する能力が付いて行くのだと思います。うちの妻は、私と結婚してから吉祥寺に住んだため、「吉祥寺は、ホント田舎よね」とあきれています。買い物に行くと知り合いの誰かに会うし、子供たちは大学生になっても「あ~ら、〇〇ちゃん!」と悪ガキ時代から馴染みのオバサンに声をかけられてしまいます。

「イーストサイド」へ


 現在の「近鉄ウラ」は、「ヨドバシ・ウラ」から、さらに範囲を広げて進化し、「イーストサイド」と呼ぶ人もいて、新たな開発が進んでいます。武蔵野市による吉祥寺シアターもこの地域にでき、役者さん達も近くで飲んでいるようです。劇場は、まさに社会や人間模様を描く場です。また、アニメの街、吉祥寺らしく、コミック雑誌に関わる酒場などもあり、漫画家の方も多く住んでいるようです。

吉祥寺シアター
「イーストサイド」のカフェ

マンガと地元 

以前、うちの子供が通う公立小学校の運動会のポスターを、近くに住む漫画家の西原理恵子さんが描いて下さいました。係のお母さんが、お願いしたら、快く応じて下さったとか。また、吉祥寺に住む楳図かずお先生も、トレードマークの赤と白のストライプのシャツを着て歩いていらっしゃるところを、しばしば拝見します(ご自宅も赤白ストライプのオシャレな家です=地元では議論もありましたが、「まことちゃんハウス」として親しまれています)。

まことちゃんハウス(すでに映像が出回っているので、私もアップさせていただきました)

 こうやって周辺の子供たちは、漫画・アニメの世界を身近に感じることができます。地域のこんなリアルな社会や文化との触れ合いが、子供達には重要です。ただ今では、親がニラミをきかせ、子供がアブナイ所に近寄らなければいい、という訳には行きません。インターネットを通じて、自宅にまで、直接、危険なメッセージが忍び込んで来るからです。文化との関りも、かつてのような人間的な交流が欠けているような気がします。
 その点、漫画家のいしかわじゅん先生が、しきりに吉祥寺周辺の様子をSNSでアップされていたり、イラストレーターのキン・シオタニさんが、吉祥寺など、地元の街について様々な形で発信されているのは、新しい「ふれ合い」の場として、心強く感じます。

地域社会と子供


 私も地元に住むジャーナリストとして、子供たちに社会を冷静に見る力を付けさせることはできないのか、昔のように地域で子供たちを守れないのか、考えて行きたいと思います。
 
 今、吉祥寺という街を考えれば考えるほど、改めて、地域社会というものが問われている、と痛感します。

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