VIPだからってラグジュアリーにすればいいってもんじゃない:ブランドに騙されない富裕層たち

こんにちは。英語全国通訳案内士・茶道裏千家準教授 マインドフルネスジャーニーズジャパン代表の服部花奈です。

以前、皆さんも絶対聞いたことのある世界に1億9千万人以上('20年7月現在)のユーザーを持つ巨大IT企業のCEOを一週間ご案内させていただいたことがあります。

その時に学んだのは、「ラグジュアリーじゃないと機嫌を損ねる富裕層もいるけど、そういうのを嫌うブランド嫌いな富裕層もいる、やっぱりお客様にちゃんと寄り添うのが大切」と思ったことを書きます。


依頼は突然に

お仕事の経緯は、以前に熊野古道ツアーをご案内したお客様の紹介でした。その超有名なCEOの奥様よりご連絡いただき、熊野古道を案内してほしいとのことでした。私は通訳案内士であり旅行会社ではないので、「ご連絡ありがとうございます。私はツアーの手配はできませんので、こちらの会社に連絡してガイドは私をご指名ください」とお伝えして、あとは会社に任せました。会社には特に著名人だとも伝えませんでした。なぜなら、紹介してくださった以前のお客様は「このような有名人で、でも有名人であることを前面に出したくない人たち」ということを聞いていましたし、奥様からも特段何もコメントもなかったので。会社にもある程度、予算によって手配内容を変えるラインナップがあるので、その辺はお客様自身で要望を出してお客様と会社で直接話すだろうと思っておりました。

ツアーの日程が近づいてきて、アイテナリを確認したら「ん?ちょっとベーシック過ぎるかな?」と思う点もあり、ツアー1ヶ月を切ったところで会社に「実はこのお客様。。。」と伝えて、会社は手配内容に少し変更を加えて、少しだけスペシャル感も出して、ツアー初日を迎えました。

京都案内をなさっていたのは偶然、私の先輩でした

お客様との熊野古道ツアーの初日は夜のウエルカムディナーから。でもその日のお昼間に他の旅行会社でお世話になっている先輩から「Kanaさんがこのお客様の明日からのガイドなのね?晩ごはんについてこんなリクエストが来ているのだけど」とLINEで連絡がありました。

熊野古道の手配と、京都の手配は、異なる旅行会社なので、京都でどの会社の誰が案内しているか知らなくて、「あ、先輩だったんですね!」と。京都の部分はCEOの秘書さんが手配して、熊野古道の部分は奥様が自ら手配したそうです。秘書さんが手配した京都は、当然「超ラグジュアリー」な内容で手配。そりゃそうだ、自分の上司である世界的著名人に、ラグジュアリーな手配以外できるわけがない。しかも予約を受けた旅行会社も、「こんな著名人だから、こういう手配とこんな気配りが必要であることを関係者すべてに伝えなくては」とますます厳重な手配になる。そりゃそうだ。

でも先輩のツアーが終わって、私とのウエルカムディナーの前に先輩がお電話くださって「Kanaさん、会社は違えど同じお客様だから引き継ぎなんだけど。なんかね、世界的著名人だけど、そうやって扱われるの嫌そうだったよ」とのことでした。なるほど、それは安心。普通に、肩書き関係なく、一人の人として接すれば良いのですね。はーい!

自然の中で生きる動物的な感性を持ち、目の前にあることを全身で楽しむ人だった

ツアーは、CEOご夫妻と、CEOのご近所に住む仲良し夫婦と、当時旦那様が京都で教授として教鞭をとっていたご夫婦、の6名でした。3組とも昔からの仲良しのお友達。みなさん全く気取らない、人生を楽しむことを知っている、とても良い人たち。

一週間も一緒にいれば楽しいこともいっぱい、一緒に笑うこともいっぱい、要望もいっぱい(お客様には笑顔を保ちながら、影で会社と何度もいろいろ交渉して、その要望を通してもらう!)、一人のお客様の捻挫などハプニングも少し。

一週間朝食から晩ごはんまでずっと一緒に過ごさせていただき、たくさん学ばせていただきました。

毎日の楽しかったことも、嫌だったことも、すべて笑いに変えて1日を終えること。

自然の中で感覚を研ぎ澄まし、自分の心と身体が何を求めているのかちゃんと聴くこと。

自然の中で無になる時間を持つこと。

自分のやりたいことが世の中になければ、作ってしまえばいいこと。

目の前にあることを全身で楽しむこと。

料理も、宿も、最高得点は小さな民宿だった

熊野古道を歩くので、行程に沿って毎日お宿は変わります。ツアーで泊まった宿の中でどこが一番好きだったか CEOに聞くと、小さな町の小さな民宿でした。

そこは、私もなんどもお仕事で行っていますが、ごはんも最高に美味しいし、お宿のみなさんが本当に心からの笑顔でおもてなしをしてくださって、大好きな場所。だからそこを選んでくださって、とても嬉しかったです。

そこは旅館でもなくて、家族経営の小さな民宿で、部屋に洗面もトイレも付いていないし、自分で布団敷かなきゃいけないし、建物も古いし、なんなら部屋の畳も交換時期過ぎてる感じです。でも、そこの田舎ごはんは最高に美味しいし、みなさんのからっと明るくてあたたかいおもてなしは最高です。

CEOは「僕は全然ラグジュアリーなホテルとか希望してないんだけど、周りが勝手にそうするんだ。僕はこういうところの方が好きなんだけどなぁ。」と著名人ならではのお悩みもポロリ。

ブランドに騙されない。ノーブランドでも良いものは良いと判断できる。そういう人だから成功したに違いない。

 CEOは自分の肩書に寄ってきて、自分の肩書に基づいて判断する人間を嫌うように、ご自身も物や人を決してブランドで判断しない人でした。

素朴でも良いものは良い、ラグジュアリーでも嫌なものは嫌だ。

ものや人の本質を、きちんと見てくださる方だと思いました。

そんなCEOご夫妻に「熊野古道の一週間と、前後の京都観光、すべてKanaでも良かったけど、ガイドって相性もあるし、友達の紹介ではあったけど、友達には合っても僕たちに合うとは限らないしと思って京都は別手配にしたけど、全部Kanaにお願いしたら良かったよ。」

と言われて、嬉し過ぎた私でした。

そして、著名人だからって、自動的になんでもハイエンド手配にするのではなくて、ご本人のご意向に寄り添うのが大切だと再確認しました。

お客様が何を求めているのか、いつもちゃんと寄り添っていきたいと思います。

素敵なお仕事を、ありがとうございました。

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