見仏記 9 1-5
早朝、みうらさんが息をひそめて暗い部屋を出るのがわかった。スマホを見ると六時半。朝風呂を浴びに行ったのだろうと思い、私ものんびり宿の階下に向かった。
案の定、みうらさんは露天風呂にいた。陶器の壺のような風呂がふたつあって、ひとつずつが大人三人入ればぎゅうぎゅうという作りだった。私は迷わず湯気の立っているみうらさんの壺に入った。
「いやあ」
「いいねえ」
みたいな朝一番の会話だったが、それからしばらく無言でいると、みうらさんが何かをふと思い出して、しゃべり出した。
「夢でさ、いとうさんは凄い人なんだって誰かに力説してたんだよ、俺」
「ああ、そうなの。ありがとう」
「いやほんとに凄いんだってこと、そいつが理解してないからさ。何度も説いてやった」
「そっか、どうもすいません」
壺状の風呂につかりながら、今度は当の私に向かって、いとうさんは凄い人なんだとみうらさんは言い始めた。私は何度も頭を下げた。なんで朝からそんなことになったのか。
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