スポンサー

私は夏がとても忙しい。今年は比較的余裕がある方だけど忙しい時はXのTLが全く負えないくらいだ。
そんな私が一息ついた時にふとXを眺めていると興味深いX'sが目についた。

皆さんご存じの通りMリーグでは各チーム積極的にスポンサーを募集しているなかで上記のスポンサーは完全に個人に紐付いた格好だ。

麻雀プロはMリーガーを除いて純粋に競技プロとして稼いでいる選手はほとんどいない。というより所属団体に支払う費用で毎年マイナススタートだと思う。仲林さんも醍醐さんも過去にサラリーマンとして勤務しながら麻雀プロとしての活動を行う兼業プロだった。そして麻雀プロの大多数が今も兼業プロだろう。

いつか麻雀プロとして経済的にも自立することを夢見ながら副業として勤務していた企業あるいは取引先の企業から高い評価を得たということはとても素晴らしいと思う。

私もかつて東京で勤務していた時にアルバイトとして勤務していたスタッフの多くが何らかの夢を持ちながら副業として働いていた。バンドマンや役者志望といったフリーターにありがちな姿で残念ながらメジャーシーンで活躍するに至ったスタッフはいなかったけど小劇場や小さなライブハウスで公演する機会はそれなりに多くて私もしばしば見に行くことがあった。

少し話はズレるけども、というか毎度毎度とっ散らかってしまうが好きに書かせてほしい(笑)

コモさんというアルバイトスタッフがいた。確か私より6〜7歳くらい歳上だったろうか。私が入社した時には既に古参の雰囲気でとある業務のバイトリーダー的存在だった。いかにもオタクといった風貌でお世辞にも清潔感はなく、かなり太っていたコモさんは社内の女性からは好かれてはいなかった。というより嫌われていた。ただし人柄はとても良く私が質問すると自作のマニュアルを使いながら丁寧に教えてくれたし人の悪口は決して口にしなかった。女性には縁がなく自虐ネタで「僕は単なる素人童貞のデブ野郎ですから」とよく言っていた。人目も憚らず堂々と風俗話とかもするので女性スタッフからは嫌われていたが私はなんとなくコモさんと気が合ったみたいで一度だけ渋谷センター街の居酒屋で晩メシを食べながら色々な話を聞いた。

コモさんは親が薬剤師で薬局を営んでいる実家に住みながら何故か歯学科を卒業し歯科医師免許を持っているという異色の経歴を持ちながら声優を目指していた。30代のコモさんは若い頃から目指していた声優の夢を捨てきれずアルバイトのかたわら声優養成所のレッスンの他にボイストレーニング、演技レッスンに通っていた。そしてコモさんは養成所の卒業オーディションでは惜しくもプロダクション所属とはならず当時はフリーの立場でオーディションの機会を伺いながら日々レッスンに励んでいた。

そんなコモさんはある日私に「歌のレッスンを兼ねてギター教室に通うことにしました。今度発表会があるので良かったら見に来てください。」と言ってくれた。場所は大田区の公民館みたいな所で当時の勤務地からは近くはなかったが私はなんとか仕事の都合をつけて見に行くことにした。

当日になり私は若干遅刻しながらもなんとかコモさんの発表には間に合う事ができた。観客は当然ながらギター教室の生徒の身内ばかりだ。客席を見渡しても社内のコモさんの仲間は誰もいなくて私だけの様子だった。生徒のなかから持ち回りでMCを行い発表者を紹介して歌う、そんな流れだった。演者の年齢層は様々だったがなんとなくコモさんに似たオタク特有な雰囲気だった。内輪の盛り上がりで独特の雰囲気のなか、やがてコモさんの紹介が始まりコモさんがステージ上でスタンバイし始めた。

MC「コモさんはアルフィーが大好きで普段からアルフィーのスタジャンを愛用しています」

私(ほう、アルフィー好きならアルフィーの曲から選曲するんだな。アルフィーってキー高そうだけど声低いコモさんは大丈夫かな?)

MC「コモさんはアルフィーのCDは全部持っていてギターでも色んな曲が引けるようになりました。とにかくコモさんはアルフィーが大好きなんです。」

MC「そんなコモさんが歌います。聞いてください。関白宣言。」

私は思わず「えー!?」と言ってしまったが他の観客は違和感なくコモさんを見つめていて何だか異様な雰囲気だった。MCも慣れない人前で必死で決してボケたわけではなくコモさんも一生懸命に歌っていた。正直言って下手くそだったけど演者の皆は真剣に発表会を盛り上げようとしている様子が伝わってきた。

演者の頑張りもむなしくそれほど盛り上がりは見せないまま発表会が終わりコモさんに挨拶に行くとコモさんは主催者に私を「僕の友達です」と紹介してくれた。普段は卑屈っぽいコモさんが私のことを堂々と友達と紹介してくれたのはなんとなく嬉しかった。私はコモさんに次回の発表会も誘ってほしいと伝え会場を後にした。

そんなコモさんは40を過ぎた頃に急にシフトが減った。私は忙しくてしばらくコモさんと話していなかったが、そんな異変が気になりコモさんが出勤した時に何があったかと聞いてみたところ、「歯科医師として少しずつやっていこうかと思って週3で歯医者に勤務してます」とのことだった。

私はコモさんの心境の変化に気が付かず突如知らされた彼の夢の終わりと新生活の始まりをいっぺんに感じられて複雑な気持ちになった。程なくして私は転勤となりコモさんとの関係は終わり今に至る。

夢を追うことはとても難しい。

名台詞「諦めたらそこで試合終了だよ」のとおり諦めなかったらいつか夢は叶うかもしれない。でも続けていくには心が削られていくこともある。あるいは日銭を稼ぐだけの手段がやがて頭角を現しそれを本業としてやっていくこともある。

夢を追うことの最大の難題は日々の生活との帳尻合わせだと思う。勤務先では夢を追うスタッフの支援は最大限協力したいと考えてくれるオーナーや責任者は少なくないが誰しも突発的に日々の業務に穴を開けられては困るのだ。もちろん当人からしてもそれは不本意であるので日々の仕事で埋め合わせていくしかないと考える。その結果として副業として勤務しているはずが存在価値を高めていく行為と同義になり業績を認められ、やがて責任が伴うレイヤーになっていく。そこで自身の年齢と才能を振り返ることになる。あるいは付き合っている女性がいればその子との将来を天秤にかけて自身の身の振り方を決めていくのだと思う。

麻雀プロは現在Mリーガーというわかりやすくて明確な目標を持つことが出来る。これまでの麻雀プロのモチベーションはG1タイトル獲得だったと推測するが多くの麻雀プロの目標はMリーガーとなった現在はG1タイトルは目的ではなく手段に過ぎないという見方もできる。

Mリーガーでなくても浅井プロのように自身を支援してくれる企業を獲得することが出来たのはある意味ではMリーガーになることよりも高い評価を得たと言ってもいいのではないだろうか。

人生とは選択の連続で全てトレードオフで成り立っている。桃源郷のような麻雀界にいながら自身を律してサラリーマンとしても日々研鑽する。これは並大抵のことではないと思う。サラリーマンとの兼業プロは経済的には安定していてもどこか将来に不安や迷いが生じた瞬間が沢山あったと思う。それでも愚直に継続することは凄いことだし本業も副業も成果をあげたことは立派と言う他ない。

そういう意味で冒頭の件に戻ると選手個人がチームへスポンサーをもたらすこと自体は本人の人間性の評価と直結しているはずなのでファンとしても喜ばしいことだし賞賛に値することだと思う。

対照的にドリブンズはこれまでスポンサーのオファーを断っていたという話題が物議を醸した。この時に私は損する話じゃないのになんでかな?くらいにしか感じなかったが今回の件で自分なりに感じたことがある。

スポンサー契約の詳細を知らないのではっきりしたことは書けないがデメリットとして挙げるなら個人がスポンサーを連れてくると当該選手をMリーグの成績を軸にした評価がされにくいことがあると思う。選手起用法でチームの勝敗がどれだけ影響があるのかは未知数だがルールによる選手入れ替えとなった時にはフェアな判断に少なからず影響はあるのではないだろうか。

Jリーグでいうキングカズこと三浦知良さんはピークを過ぎてもなお試合の出場数に関わらず大変多くのスポンサーがつくらしく、当然カズさんをベンチ入りさせることが半ば義務化されフロント陣としてはベンチ枠が他チームより1つ減ることで若手の起用に影響が出ることになり悩みの種なのだという記事を見たことがある。

もう一つは私の想像だがスポンサー契約がいわゆる株式会社でいう出資であると勘違いさせてトラブルの原因になるのではないかという懸念。小口のスポンサーは中小企業のワンマンオーナーの鶴の一声で決まるパターンが多いと推測され、選手個人に出資しているのだから当該選手をもっと出してほしいというクレームのリスクがあるのではないだろうか。これは私の勝手な妄想なのでそんなことはそうそう起きるわけもないが選手個人がスポンサーを連れてくるということは非常にデリケートな側面もあるように思う。

ドリブンズの越山監督は大企業のスポンサーをつけたいと言ったかどうかは不明だが小口のスポンサーを数多く抱えることは過去の経験からトラブルを招くリスクがあると推測しているのではないだろうか。そうすると経済的合理性のある出資やCIを目的とした大企業の資本力をもってすればその手のトラブルのリスクは限りなく0に近いと思う。

とはいえMリーグはまだまだ世間的認知度は低いので色んな企業が関わっていくことで化学反応が起きることに期待するフェーズではないかとも思うのでBeastのように企業の広報活動みたいな見え方があっても良いのだと今は思う。

こんな感じで開幕戦を人気投票で決めるなんて個人的には支持はしないが話題性はあると思う。

いずれにしてもお金を出すということは簡単なことではないので色んな角度から思いを巡らせていくのも面白いのではないかなと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?