最後のセックスの話
どうも、水谷うーすけです。
激しいタイトルだけれどやらしいきもちは一切抜きで読んで欲しく思います。
元バンドマンとして掘り下げたい話を、特に語る場所もないのでここで書こうかと。
僕は15歳から音楽を始めて、それ以来ずっと自分で曲を作ってきたけれど、曲を聴く時にクリエイターとして音楽に触れることはあまりない。
正直な所、僕は音楽なんていう特に自我の強い業界にいながら、音楽を作ることにプライドやこだわりはそこまで強く持っていない。
その代わり、僕が強く関心を向けるのは「歌詞」の部分である。
「歌詞にこだわりがある」なんて言うと、これまた技術が薄い割にプライドだけ高いだせぇバンドマンのようで気が引けるけれど、僕は元々日本語の奥ゆかしさや表現をとても愛していて、自分がそれを使って作品をアウトプットする手段がたまたま音楽だっただけで、正直何でも良かった。
前置きが長くなりそうなので、ここで割愛して本題にはいるけれど、そんな僕が他のアーティストの歌詞を読んで「はぁ〜凄いなぁ、やっぱり日本語っておもしれぇ」と思うことは沢山ある。
受け取り方が無数にあって、言葉の裏側にその人が何を隠して書いているかなんてもう本人にしか分からない。
それが日本の音楽における文学感というかなんというか。
そんな日本語の魅力をみんなにも気づいて欲しいな、なんて思いながら少しひとつの歌詞に対する僕の考察を書いていきたい。
注釈を入れるけれど、あくまでこれは僕個人の受け取り方の問題なので、正解がこうだ!!と言ってる訳では無いので悪しからず。
日本語を展開すればこんな読解の仕方があるよ、というお話です。
さて、皆さんクリープハイプというバンドをご存知でしょうか。
十数年前にメジャーデビューして、フェスバンド界を風靡した若者に人気なバンドだけれど、彼らは「恋と性」をあけすけに描く歌詞が特徴で、Z世代の価値観の女性には特に強い支持がある。
その中でも僕が大好きな曲が「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」
という歌である。
これは、彼らのメジャーデビュー曲にもなるのだけれど、歌詞は以下のような内容だ。
おやすみ泣き声、さよなら歌姫
詞:尾崎世界観
さよなら歌姫最後の曲だね 君の歌が本当に好きだ
今夜も歌姫 凄く綺麗だね 君の事が本当に好きだ
さよなら歌姫 アンコールはどうする 君の事だからきっと無いね
それなら歌姫 アルコールはどうする 僕は全然飲めないけど
歌声 歌声 でも君は泣いていたんだね
泣き声 泣き声 僕は気づけなかった
僕も随分年をとったよ こんな事で感傷的になってさ
今なら歌姫やり直せるかな 君はいつも勝手だ
歌声 歌声 でも君は泣いていたんだね
泣き声 泣き声 僕は気づけなかった
最後の4小節 君の口が動く
最後の4小節 君が歌う
最後の4小節 君の気持ちが動く
さよなら
歌声 歌声 でも君は泣いていたんだね
無き声 無き声 僕は気づけなかった
一見すると、ストーリーとして「表舞台を去る歌姫を悲しい気持ちで見送る少し温度の高いファンの話」を描く歌詞ととれる。
けれども、僕は全然違った解釈を持っている。
それが、タイトルにある「最後のセックスの話」なのだ。
まぁ、分かるよ。
あなたたちの言いたいことは。
「こいつ、なんだかいきって分かった風なこと言ってアーティストを気取ってやがるぜ!」
てなもんでしょう。
けれど、けれども聞いて欲しい。
今から日本語の面白い部分を説明していこうと思う。
国語の授業でも習うもので、日常会話でも使われる文学的表現には「比喩」というものがある。
これをもっと踏み込んだ技法として「暗喩」というものがあるが、これをこの歌詞に当てはめていくととても腑に落ちる部分が沢山ある。
そうしてこの歌詞を考察したら、「別れ話の後にする最後のセックス」というストーリーに行き着いた。
まずは最初の節
″さよなら歌姫最後の曲だね 君の歌が本当に好きだ
今夜も歌姫 凄く綺麗だね 君の事が本当に好きだ″
ここで出てくる「歌姫」は彼女
「君の歌」は声をさす。この歌詞の中で多くは「喘ぎ声」になる。
待って。
僕今面白おかしい話をしてるわけじゃないんだ。
冒頭から行くと確かに変なことを言ってるかもしれないけれど、解説を最後まで読んだらきっとあなたも納得が行くはず。
んで、ふた回し目の節は歌姫を彼女として、あとはそのままの意味。
ただ状況的に彼女を綺麗と思っているし、本当に好きだと言っているので彼は振られた側だろう。
そして次。
″さよなら歌姫 アンコールはどうする 君の事だからきっと無いね
それなら歌姫 アルコールはどうする 僕は全然飲めないけど″
ここでアンコール、アルコールと韻を踏んでいる節だけど、正直元のストーリー解釈だとアルコールの意味が全く分からない。
単に韻を踏むだけで入れた無意味な言葉になる。
けれども、これが最後セックスの話だとすれば
アンコールは「もう一回する?でも君はいつも一回で疲れるからきっとないか。じゃあお酒でも飲む?僕は全然飲めないけど、最後くらいは付き合ってもいいよ」
と言う意味で筋が通る。
ね???ちょっと「おっ??」って思ってきたんじゃないすか??
じゃあどんどん行ってみよう。
″歌声 歌声 でも君は泣いていたんだね
泣き声 泣き声 僕は気づけなかった″
これは、喘ぎ声の中に混じる彼女の泣き声。
別れを告げる彼女の気持ちや感情を汲み取れなかったということを表す描写だと解釈。
そして二番。
″僕も随分年をとったよ こんな事で感傷的になってさ
今なら歌姫やり直せるかな 君はいつも勝手だ″
元のストーリー解釈とすると、一番ブレる節。
これは二行とも、かなり近い位置から「歌姫」に対して感情を向けている。
だから歌姫とファン、というストーリーだとこの節の意味を説明するのは少し無理がある。
僕の解釈だとここは
「別れ話くらいで感傷に浸るくらい歳をとった」と言う意味で捉えた。
確かに、高校生や大学生のような若い恋愛だと、もちろん個人差はあるけど別れ話の辛さは一時的なものだったりすることもある。
でも歳を取ればとるほど、新しい恋愛に体力を使うようになるから、ひとつの別れがどんどん重たくなってくることを言っているんじゃないかと。
「今なら歌姫 やり直せるかな 君はいつも勝手だ」
の部分は、行為が終わったあと少し情が戻ったのではないかと少し卑怯なことを思ってる様かな、と。
そんなこと思いながら相手の勝手さにももやもやしているのかなぁ。自分は卑怯なことを思っているから「いやでも君もさぁ…」みたいな。
そしてそのままサビを繰り返してCメロ
″ 最後の4小節 君の口が動く
最後の4小節 君が歌う
最後の4小節 君の気持ちが動く
さよなら″
これはこの解釈だとすれば個人的に深いシーンだなと思う。
多分これはセックスの最中、最後の4小節でもう終わりかけている時の話を表しているのだと思うけれど
「最後の4小節 君の気持ちが動く」
という節で、彼女は「本当にこれで最後なんだ」と気づいて泣いてしまったのだと思った。
多分、色々あって別れることにしたけれど、いざ別れるとなれば残った思い出は全部綺麗なものばかりで、感情が動いた、というところだろうか。
だからこそ、最後に添えられた「さよなら」
がとても痛い。
そして最後に、サビを繰り返して終わるけれど
締めの″僕は気づけなかった″には色んな意味が含まれているように感じる。
以上から、僕のこの歌詞の解釈は
「それなりに長く付き合っていた彼女に突然別れ話を切り出され、最後思い出のように名残惜しくセックスをする話」という考察でした。
いや、実際ね。
あると思うんだよ、大人だから。
どれだけ綺麗事を並べようが性欲と恋愛はどうしてもイコールだし。
振られた側が最後にせめて相手の気を引きたくて、ズルズルとセックスしちゃうみたいなことって少なからずあるし、その背徳的な状況から生まれる切なさってなんとも言えなくて。
そこに切り込んできているとしたらとっても奥が深くて扇情的な歌詞だと思う。
何故こんな考察に至ったかと言うと、クリープハイプはこのシングルより以前に出しているインディーズでの楽曲は、若者の性や愛に対して揶揄したり共感したりする歌詞が多かった。
尾崎さんの思考の根底にはそういうメッセージ性が根強くある中、メジャーデビュー一枚目のシングルでは大人の事情で自分の思想を前面に押し出さず誰でもわかりやすいものを書いたのかと思うような節もあるけれど、尾崎さんは以前「アーティストとファン」という関係性を「恋人」と語ったことがある。
という事は、この歌詞の中にある二人もそのままそういうことなんじゃないか、と思ったわけだ。
ここまで来れば、僕が突拍子もなく訳の分からない考察をひけらかしている訳では無いことを理解してもらえたと思う。
さて、くどいけれどあくまでこれは僕個人の言葉の受け取り方の問題で、これが正解かどうかは本当に分からない。
そもそも、僕だって歌詞を書く時「こんなの誰も意味わかってくんないだろうな」と思いながら、錬金術師の研究書のような暗号を書き連ねていたわけだし、受け取る側が楽しんでくれるならばどんな解釈をしても構わないものなのだ。
しかし、日本語ないし言葉にはこれくらい無限の可能性と力と楽しみ方がある。
笑いだってそうだ。
同じ言葉でも組み方、言い方、状況しだいでは起こる笑いの量が全く違う。
言葉は人の感情を動かす魔法のようなものだと思っている。
そんな言葉を僕は愛している。
というわけで、読んでいただいた方は楽しんでいただけたでしょうか。
言葉の奥深さを楽しいと思ってくれれば幸いです。
そして、この素晴らしい歌詞を生み出してくれた尾崎世界観さんにも心からリスペクトです。
長くなりましたがそのうちまた気が向いたら別の歌詞の話もしようと思います。
では、次はちゃんとお笑いの記事書きますね。
ではごきげんよう。
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