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モノローグ台本『脳みそのあるカカシ』

はじめに

男性、女性どちらでも演じていただけます。

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本文

『オズの魔法使い』を元にした物語。 

 時刻は夕暮れ。

 カカシ、背後に広がる畑を眺めている。
 カカシのすぐ隣には、カカシをくくり付けるための木が建てられている。

 特定の誰かというわけではなく、聴衆に対して語りかけているような形式。

カカシ「どうです?良い畑でしょ。僕がいない時は荒れていたんですけどねぇ。だんだん元通りになってきました」

カカシ「あぁ、どうも。カカシです。といっても普通のカカシじゃありません。脳みそがあるんです。もらったんですよ!誰がくれたと思います?そう!エメラルドの都に住む偉大なるオズの大王!…ではないんです。……そうなんです。くれなかったんですよ、大王様。なんだっけな。確か…『君たちが求めているものは、既に旅の中で手に入れている』とか言われちゃって。……響かなかったですねぇ。あ、今ならわかるんですよ。言わんとしてることっていうか、言外(げんがい)のニュアンスみたいなの。ただその時はほら、脳みそなかったから。『話がちがうだろ!』って暴れちゃって。あ、ドロシーも言ってくれたんですよ?『今のあなたで十分、魅力的だ』って。……響かなかったですねぇ。『ちょっとなに言ってるか分かんない』って答えたら、ドロシー泣いちゃって。『お前、心無いんじゃない?』とかライオンに言われて、『いやそれ、私のキャラですから』って木こりがツッコんで。…ギスギスしてたなぁ」

カカシ「とにかく、脳みそをもらえないことに全然納得できなかったんです。そしたらですよ?突然、南の魔女が僕たちの前に現れて、なんと、脳みそをくれたんです!だから今、僕の頭の中には、脳みそがあります。ピッカピカの。あ、ちなみに当時から喋ることはできていたんです。だから厳密に言えば、僕に無かったのは知性でした。僕は知性を手に入れたんです」

 カカシ、雰囲気が変わる。

カカシ「驚いたなぁ。……僕、馬鹿にされていたんですね。よくドロシーに言われてたんですよ。『あなたはいつも楽しそうね』って。…嫌味でした。いやぁ、気づかなかった。あ、こんなこともありました。ある時、ドロシーが西の悪い魔女に捕まって、僕たちは助けに行こうとしたんですけど、木こりとライオンが僕にこう言ったんです。『お前だけが頼りだ』って。…で、僕は先頭を歩かされました。…得意げになっていたんですけど、あれ、ただの人柱だったんすねぇ。他にも、食料を探す役目はいつも僕でした。『あなたが取ってきた果物は美味しい』ってドロシーは褒めてくれましたけど、そんなわけないですよね。僕は、ただ利用されていたんです」

カカシ「…その事実に気づいた時、どうしようもなく腹が立ったんです。悔しくて、情けなくて。これもきっと、脳みそがなければ起きなかったことなんでしょうね。それからのことはよく覚えてません。気付いたら、手が真っ赤に染まっていて、木こりとライオンは動かなくなっていて、目の前には、『ごめんなさい。許してください』と、泣きながら謝っているドロシーがいました。僕は…その涙を信じることができなかった」

カカシ「もう、この国にはいれません。どこか遠いところに行こうと思います。ここからの景色は好きだけど、辛い思い出が多すぎる。でも…畑にはカカシは必要です」

 カカシ、木に縛り付けられたドロシーの亡骸を見る。

カカシ「だから……後はよろしくね、ドロシー」

(完)


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