細菌多様性③ Tara océanプロジェクト
メタゲノム解析手法を使って,Tara océan(タラ オセアン)プロジェクトと名付けられた全球規模での海洋微生物の生態系調査が行われました.
科学探査船Tara号は,2009年から2013年にかけて地球上の全ての海を航行,その総距離は地球3周分以上の12万5000 kmにもおよびました.
航行の過程で,200か所以上の地点から 3万5000以上におよぶ海水サンプルが採集されました.
採集されたサンプルのうち,68地点から採集された243サンプルが,微生物生態系のメタゲノム解析に用いられました(Sunagawa. 2015. を参照).
海水サンプルから微生物を選別するためにサイズ分画を行い,3 μm未満の画分を標的にして,合計7.2兆塩基対のDNA配列についてメタゲノム解析が行われました.
得られた遺伝子の情報は,公的に利用可能な海洋メタゲノムデータベースと統合され,海洋微生物遺伝子カタログ(Ocean Microbial Reference Gene Catalog)が構築されました.
海洋微生物遺伝子カタログには,4000万種類以上の遺伝子が掲載されており,そのうちの なんと81%がTara océanプロジェクトによって発見された新規な遺伝子でした.
また,遺伝子情報と得られたサンプル環境の関連性 から,
全環境においてProteobacteria(プロテオバクテリア)の存在量と多様性が最も高く,次いで表層では光合成細菌のCyanobacteria(シアノバクテリア),深層では深海底熱水活動域に生息するDeferribacteres(デフェリバクター)やThaumarchaeota(タウムアーキア)が多いこと.
深いほど種の多様性が高く,また微生物の存在密度が低いこと.種の多様性は15℃程度の環境で最も高いこと.
深いほど運動性と走化性(化合物を感知して接近・忌避する能力)の重要性が高いこと.
などが明らかになりました.
これらの成果は,海洋生態系の更なる理解と気候変動の影響の予測に繋がる貴重なものとなっています.
参照
Sunagawa et al. 2015. “Structure and function of the global ocean microbiome” Science. 348(6237):1261359. doi: 10.1126/science.1261359.
Tara océan(タラ オセアン)プロジェクト公式HP
(https://jp.fondationtaraocean.org/expedition/tara-oceans/)
(細菌多様性④に続く)