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ふしぎな縁(千原こはぎ)

こんにちは、千原こはぎです。
だんだんと秋らしくなってきましたね。この季節の空気感、とてもすきです。

さて、5巡目となる今回のテーマは「読書」。
変わったテーマが多かった「水たまりとシトロン」ですが、今回は王道といった感じです。
読書にまつわることならなんでもいいということで、すきな本の紹介でもしようかな~と思っていたのですが、昨日ふと思い出したできごとが読書にちょっと関係していることだったので、今回はそちらのお話をしたいと思います。

大阪の中崎町というところに、詩歌を主に扱う「葉ね文庫」という小さな本屋さんがあります。詩歌をされている関西の方にはもう言わずもがなな本屋さんです。店主は池上さん。短歌仲間です。
わたしもこの本屋さんが好きで、拙書『ちるとしふと』はもちろん、私家版の『これはただの』もずっと置いてもらったりしてお世話になっているのですが、わたしにはなぜか"葉ね運"がなく、珍しく大阪に行く機会があるとことごとくお店が閉まっている日だったりして、行けるのは年に1~2回という状況です。

数年前になりますが、歌会かなにか短歌のイベントが大阪であり、その日はうまく葉ね文庫に立ち寄ることができました。
あちこちの本棚を見ていくつか本を買って、おなじみの「葉ね文庫」と書かれたざらりとした質感のブックカバーを丁寧に丁寧に掛けてくれる池上さんをほっこりと見守ってから、大阪から滋賀への帰路につきました。

ちょうど電車が混み合う時間帯だったため、大阪駅を出ても席に座ることはできず、しばらくはずっと立っていたのですが、京都駅で人が降りたので、ひとつだけぽっかりと空いたボックス席の窓側に座ることができました。
やっと座れたからさっき買った本でも読もう…と文庫本を一冊取り出して読み始めました。

電車はすぐに滋賀に入り、しばらく走って、人がたくさん降りる少し大きめの駅にまもなく着くというアナウンスがあったあたりで、隣に座っていた方が降りる準備を始めました。そのとき、不意にその方から「あの…」と話しかけられました。
顔を上げると見知らぬ若い女性。
(………えっ?だれ?どこかで会った?いやまったく知らない人だ…)

電車内で知らない人に話しかけられることがほぼなかったので、一瞬なにが起こったのかわからなかったのですが、続いて飛び込んできた言葉が、
「それ…葉ね文庫、ですよね。よく行かれるんですか。」
「…………えっ…あ、はい……あの、たまに…」
(っていうかさっき一年ぶりくらいに行ってきたところで…でもめったに行けなくて…わたし葉ね運がなくて…いやそうじゃなくて、っていうかあなたはなぜ葉ね文庫をご存知で……え、あなたも葉ね文庫に行かれる方ですかっていうかもしや……?)

「いいですよね、葉ね文庫。」
話しているあいだに電車はホームに到着していて、「いいですよね」はほぼ立ち上がって降りられる直前に発せられた言葉。
突然だったこともあって、満足に返事もできないまま、その方は降りてしまいました。
ホームのエスカレーターを上がっていく彼女を窓越しに見送りつつ、頭の中にはいろいろなことが浮かんでいました。

大阪でならまだしも、滋賀で、葉ね文庫を知っている方がいるなんて……もしや、詩歌がおすきな方?
まったく知らない顔だったけど、短歌だろうか、俳句だろうか、詩か、川柳か……?
今日、偶然葉ね文庫からの帰り道で、この時間のこの電車で、偶然この席が空いていて、偶然あの人の隣に座って、偶然葉ね文庫カバーのかかった本を開いてなかったら、話しかけられることのない人だった。
ていうかわたしは京都で座ってからずっと隣で葉ね文庫カバーの本を読んでたから、話しかけるか話しかけないべきかしばらく逡巡されていたのでは……そして降りがけに思い切って声をかけてくれたのでは……?
\もっと話してみたかったーー!!/

葉ね文庫のブックカバーがつないだ、ほんの一瞬の小さな小さな縁。
たったこれだけのことですが、数年経った今でもあの日のことを覚えていて、偶然ってすごい、世の中なにがあるかわからない、と、ときどき大げさに感動したりしています。
これからずっと短歌を続けて、葉ね文庫にもちょくちょく顔を出していたら、いつかあのときの方にまたお会いできたりするのでしょうか。
短歌を始めてから、ふしぎな縁に出会うことが増えました。

まだしらない世界にわたしをつれてゆく鳥だつばさを広げた本は

葉ね文庫 http://hanebunko.com/


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