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もうひとつの夢を追いかけて ―祝 大島洋平2000安打達成―

 2023年の手帳、8月28日。

 悪夢の8連敗のあとの、サヨナラ…! 
 ひさしぶりに新聞に埋もれて、ニヤニヤしている。
 やっと手放しに喜べる!
 大島さん、2000本安打おめでとうありがとう!!


 

 2023年8月26日(土)、中日ドラゴンズ・大島洋平、2000本安打達成。
 その瞬間を現地で無事に見届けたけれど、わたしの記憶のなかの映像には音がない。
 打った本人いわく「基本に忠実なセンター返し」だったその打球の行方を確認して、あわてて視線を戻したときには、一塁を回るところだった。あっという間。あわてて足元を探る。掲げていた「あと1本」タオルをぐっぴーさん作の㊗2000本のボードに持ちかえ、一塁付近に目をこらす。

2000本前夜  2023.8.25 ライスタ@バンテリンドームナゴヤ
ぐっぴーさん作のボード。X(twitter)上で無料配布してくださっていた。

 後輩選手たちから両手に余る大きな花束を受けとる大島洋平は、晴れやかな表情だった。やがて、場内アナウンスがサプライズゲストの登場を告げる。その姿を視界にとらえると、彼は抱えていたふたつの花束を片手に持ち替え、ヘルメットを脱いだ。まっすぐに伸びた背すじが、ゲストとの関係性を物語る。ゲストは享栄高校時代の野球部の恩師、柴垣監督。彼らが固い握手を交わした瞬間は、視界がにじんでよく見えなかった。

 

「撮る方は私が撮るから、うたさんは肉眼で見て!」と言ってくれた友達のおかげで、わたしは5階席からカメラもスマホも持たずに、その一部始終をたっぷり味わえた。本当にありがとう。
 その晩、送られてきた動画を再生してみたら、今まで聞いたことのない周波数で自分が叫んでいて、白目をむいた。まったく記憶にございません。

2023.8.26 大島洋平選手 2000本安打達成の瞬間(撮影者©まいえさん)

 

 

 2023シーズンのはじまりは希望に満ちていた・・・はずだった。2000本安打まで、残り115本でのスタート。開幕前の大島は「オールスター前には決めたいですね」「早く決めて、すっきりしたいですね」と語っていた。もちろん今までのペースを考えたら、あっさり前半戦で決まる可能性のある数字。
 でも、フタを開けたら様相がちがっていた。

 昨シーズン終盤から増えたレフトでのスタメン。12年もの長いあいだ君臨していたセンターをとうとう岡林勇希に明け渡し、視界のちがうレフトを守る日々。甲子園では普段では見かけないような連続エラー(本人曰く、虫のようにピッと球が手元で逃げる時があるらしい)もあったし、それを払拭するかのような本拠地でのスーパープレーもあった。
 2023年5月11日の広島戦、同点でむかえた9回表、広島・韮澤雄也の放ったレフトオーバーの打球をフェンスに激突しながらジャンピングキャッチ。勝敗のかかる場面だし、もちろん捕れると判断したから跳んだのだろう。その勝算ありのスーパープレーに感動するとともに、コンディションへの影響が気になった。
 でも、そんなわたしの心配はてんで的外れだったようだ。

 先日放送のラジオで、大島本人は不調の要因をこう語っている。

 ずっとセンターやってたので、右と左に景色があるんですよ。試合をやってる場所が。レフトは右側がファウルゾーンなので、左側ばかり気にするんですよね。急に(視野を)半分しか使わなくなったんで。調子が悪くなったのもこれ(視野の違い)が原因なのかもしれないと。
 今は、それをセンターだったときみたいに客席まで視野を伸ばして、実際にはそこまで追えないけど、そこまで飛んできたら追うぞくらいの感覚で守っています。

CBCラジオ「若狭敬一のスポ音」(2023.12.16放送回)

 

 2022年4月にデッドボールで神経を損傷した右足は、今でも元通りではないことが素人目にもよく判る。プレー以外の場面で歩くとき、大島は左と比べてちょっとだけ右膝を高めに上げてから地面についている。負傷後、つま先が思うように上がらなかったというから、引きずらないように歩こうとしていて身につけてしまった無意識の動きかもしれない。試合に出て、打って走って守っているけれど、けっして治ってなどいない。

 10日に1度ほどの不定期なベンチスタートをくり返しながら、春先の好調は次第に影をひそめていった。当初話していたオールスター前はおろか、後半戦に入った7月23日時点で、残り29本。普通に出場し続けていたら何の心配もない本数だけれど、感染症や故障で離脱すれば、一気に危うくなる数字。選手の胸のうちなんてわからないけれど、地元の応援番組で「大島洋平 Road to 2000」なんてコーナーができるなど、盛り上げてくれているぶん、焦りもあったにちがいない。

 

 

 時間がゆるす限り現地に足をはこんだこの夏。2023年8月26日、わたしは2000本安打達成を現地で見届けたし、「2000本は通過点」という本人の言葉どおりの2001本目も見届けた。
 中日・髙橋宏斗とDeNA・石田健大、両チームの先発が奮闘したその試合は0-0のまま延長戦に入る。「今日だけはどうしても勝って・・・!」という身勝手な祈りは、神様には届かなかった。延長12回、2点を失ってドラゴンズは負けた。

 シーズン当初からわたしが夢見てきた景色の半分は叶って、半分は叶わなかった。

 

 かなうものなら、かつての仲間たちとたくさんのファンが見守るバンテリンドームナゴヤで、大声援のなか2000本を達成してほしい。そして、それが勝ち試合なら最高だ。

水野うた「2000本安打達成間近! 「身体が強い」と評される中日・大島洋平の真の強さとは」

 

 NPB史上55人目、中日ドラゴンズ史上7人目、大学・社会人卒の選手では古田敦也、宮本慎也、和田一浩に次ぐ4人目で史上最速の2000本到達・・・とてつもない大記録だ。多くのドラゴンズファンの記憶に残っていくのだろう記録。
 でも、いくら燦然と輝く大記録であっても、負けたらヒーローにはなれない。

 複雑な思いを抱えながら帰る道すがら、今ごろきっと取材対応で大変なんだろうなって思った。その頃、各社10分区切りでメディア対応をしていたことは、翌日の報道で知った。ハリウッド映画の公開初日の主演俳優みたいな目まぐるしさ。

 

 

 2023年8月27日、この日は昼過ぎまでどうしても抜けられない休日出勤。必死で仕事を片付け、チケット片手に球場へ向かう。20分遅れで階段を駆け上がって球場内へ入ったとき、大島はいつもの涼しげな姿でセカンドベース上に立っていた。2002本目はライトへのツーベースだったらしい。延長12回まで出場したあとの取材疲れを微塵も感じさせない姿に、胸をなでおろす。
 この日は延長12回裏にサヨナラ勝ち! でも、得点にからむ一打ではなかったから、お立ち台には別の選手があがった。

 勝ってうれしい。サヨナラは最高にうれしい。
 でも・・・。

 時間を巻き戻すことなんてできない。身体の奥に湧きあがる感情をくしゃっと握りつぶして捨てた。

 

 

 慣れ親しんだ上位打線ではなく、6番起用となった大島は毎日こつこつとヒットを積み重ねていく。対戦カードがヤクルトに変わった8月29日には2003本目、そして、8月30日。
 この日もわたしは、ライトスタンドから見守っていた。ヤクルトの先発は小澤怜史。1回裏からとんとんと点が入り、3回裏、石川昂弥を二塁において迎えた第2打席。カウント1-1から落ちる球をファウルでカットしながら、ガツンと振り抜いたのはど真ん中のストレートだった。ライトの頭上を越すタイムリースリーベース!
 そこからは、祈って祈って祈り続けた。勝ってビクトリーショーが行われているあいだも、ずっと。

  

手を伸ばし抱き止めた 激しい光の束
輝いて消えてった 未来のために
託された幸せと 約束を超えて行く

LiSA「炎」

 暗転の場内に照明がつき、流れた登場曲があの曲だと判った瞬間、涙が頬をつたって落ちた。
 みんなと一緒に名前を叫びたい。歓声を届けたい。でも、声にならない。

「本当は今日ここに立つような活躍ではなかったんですけど、2000本打って、みなさんにご挨拶したかったので、ここに来ました」
 その言葉にまたこみ上げるものがある。
 
 ずっと、ずっと心待ちにしていた大島洋平のヒーローインタビューが始まる。

 

2023.8.26 ©ai ドアラさんと昔からなかよし

 

 

 大島洋平は今季130試合に出場、136安打を放ち、チームトップの打率.289を残して2023シーズンを終えた。通算安打数は2021本まで伸びて、既に次の記録への道のりは始まっている。
 オフには、様々なメディアやトークショー、病院への慰問や、名球会のハワイでの会合やゴルフ…忙しさの合間を縫ってトレーニングに励んでいる姿が、メディアで伝えられている。
 あと数日もすれば、古巣の日本生命での恒例の自主トレ「大島塾」がスタートする。またひと回り分厚くなった身体と、若手が苦しむなか涼しい顔でウェイトをする姿が報じられるのを心待ちにしながら、新年を迎えるとしよう。

 2024年は辰年。チームスローガンは「勇龍突進」。猪突猛進のごとく勇猛果敢に攻める中日ドラゴンズの下剋上野球を楽しみにしている。
 そして、来季こそ大島の最年長首位打者獲得を見届けたい。ライスタで赤いタオルを掲げて。


  

――――― Special Thanks ―――――

この記事の表紙に使わせていただいた写真はai(@lomcf8)さん、動画はまいえ(@maa060203)さんが撮影したものです。 使用を快諾してくださったaiさん、まいえさん、ありがとうございました。



 

 本当は8月下旬には公開するつもりで準備していたのですが、内容を一部変更したらずるずる遅くなってしまいました。熟成下書きです。

 2023年に現地で観戦した試合は、オープン戦やファームを入れて43試合。そのうち9試合は遠征でした。14勝26敗3分。観戦試合も遠征も勝ちも負けも、すべてキャリアハイ。いっぱい負けたけれど、楽しくて充実した1年でした。
 いっしょに試合を見たり、わいわい喋ったり、現地で仲良くなったり、SNSでやりとりしたりしてくれた方たち、ありがとうございます!

 今年カメラにおさめた大島さんを少しだけ貼って、2023年の大島洋平定点観測を終えようと思います。

 アスリートとしての心身の強さや考え方を知れば知るほど、尊敬の念が深まります。凄い人ですね、大島さん。本当に凄すぎる。
 来季も若手とガチンコ勝負して、軽々とスタメンをかっさらっていく姿を見たいな。

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