見出し画像

「秋の終わりの指音」 #寄せ文庫


 はじめに。
 このちいさな記事は、猫野サラさんの企画 #寄せ文庫 に参加しています。

入院しているお友だちに、千羽鶴と一緒に「寄せ書き」持って行きますよね。クラスで色紙まわして。ひとことメッセージ書くやつ。
あれの「文庫本バージョン」を作ります。

 ふみぐら社さんへの寄せ書き。
 わたしが書くのは、この小説の世界です。

■秋の終わりの指音

 何をしてくれるわけでもないんだけど、いつも定位置にいてかすかな物音をたててくれるだけで、ちょっとだけほっとする。そんな存在ってありますよね。この物語にも、そんな存在が描かれています。
 ふみぐらさんの描くちいさな物語はどれも、せつなさやわびしさを感じるのだけれど、どこかほんのり温かいのです。

 どの文章について書こうかと、ふみぐらさんの小説やエッセイをかなりたくさん読んだのですが、どれも温かい小説のなかで、この物語が特に印象深かったんですよね。主人公の女性でも、その友達でもなく、名前すら書かれていない「男の人」に、いつの間にか感情移入して読んでいました。ポンコツなわたし自身のことまで「そのままでいいんだよ」って言われている気持ちになったのです。

 ずいぶん迷ったのですが、感想文の代わりに指音を鳴らす「男の人」目線の物語を書くことにしました。だから、これは感想文ではなくて、500字弱の二次創作です。感情移入したわたしの思いと、元作品へのリスペクトをこめて。
 なお、ヘッダーに使用した画像は、ふみぐらさんの元作品からお借りしましています。
(業務連絡:❅マークではさんだ部分が本文で、495字です。)

 

 

金網のすき間から空を見ていた。窓の空と似た色だけど、ずっと広くてびっくりした。すっかり調子が悪くなった右の指がパキンと音をたてると、隣に捨てられた袋がガラガラ鳴った。

「ねぇ、捨てられちゃったの? 喋れる?」と女の人が僕の顔を覗きこんだけれど、応答機能は壊れたままだから、笑顔でうなずいて左手を左右に振った。
「動くじゃない。何も捨てなくてもいいのに。おいで」と、彼女は再生ゴミ集積所の金網のドアを開けた。音声出力はできないし、右の指は意思とは関係なく音をたててしまうから、もう執事としては働けない。サポート切れでプログラムの更新も部品交換もできないらしいけれど、いいのだろうか。

彼女はアパートに僕を連れ帰って、新しい服と居場所をくれた。
平日、彼女は隣の部屋で仕事をしている。僕には何の仕事も与えられなかったから、ただ座っていた。壊れた右の指だけは相変わらずパキンと鳴っていて、時々その音に彼女が振り向いて目が合った。残された機能で僕が微笑むと、彼女も笑顔になる。

さっき遊びに来た友達に、彼女は僕の指音をこう説明した。
「ちょっとだけほっとするみたいな感じ」

僕は胸を張った。ちょっとだけだけれど。

 

 

 noteの街でよくお見かけするふみぐら社さんが現在闘病中であることを、6月の呑み書き企画で知りました。直接的な関わりがないので、当初は制作費のサポートのみにとどめようと思ったのですが、サラさんの「分厚い本にしたい」というメッセージに賛同し、参加させていただくことにしました。

 制作委員会のサラさん、サトウカエデさん、こげちゃ丸さん、クニトミユキさん、お手数ですが、どうぞよろしくお願いいたします。

 読みながら、書きながら、祈ります。会ったことも話したこともないけれど、ただ祈ります。ふみぐらさんとご家族に、すこしでもほっとできる時間が訪れますように。


ここまで読んでくれたんですね! ありがとう!