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連載日本史87 鎌倉文化(5)

院政時代に続き、鎌倉時代も絵巻物全盛期であった。合戦物、縁起物、伝記物など、こちらもノンフィクション色が強く、当時の世相を写実的に記録している。見ているだけで歴史のわかる学習漫画のようだ。

蒙古襲来絵詞(Wikipediaより)

合戦物の代表は、平治物語絵詞、蒙古襲来絵詞、後三年合戦絵詞などで、武士たちの装束や戦闘の様子がわかる貴重な資料となっている。縁起物とは寺社の由来を描くもので、菅原道真の一生を描いた北野天神縁起絵詞や、春日大社の由来を描く春日権現験記などが有名である。石山寺縁起絵詞では建築場面が描写され、当時の大工道具や使用法がわかる。伝記物では一遍上人絵伝、法然上人絵伝、鑑真和上東征絵伝、西行物語絵巻など、高僧を主人公にしたものが多く、当時の仏教熱がうかがえる。

男衾三郎絵詞・笠懸(Wikipediaより)

変わったところでは、地方武士の生活を描き笠懸の場面で有名な「男衾三郎絵巻」や、六道(天上・人間・修羅・畜生・餓鬼・地獄)を描いた「六道絵」などもある。また、似絵(にせえ)と呼ばれる肖像画も流行し、伝源頼朝像、後鳥羽上皇像、親鸞上人像などが描かれた。禅宗では、師が自分の肖像画に「賛」と呼ばれる詩文を入れて弟子に贈った「頂相(ちんそう)」と呼ばれる肖像画が見られ、自画自賛の語源ともなった。

親鸞聖人像(奈良国立博物館HPより)

書道では、宋の書風を取り入れた青蓮院風が和様書道の主流となり、後世の江戸時代の御家流(公用書の書体)へと発展した。陶芸では道元とともに宋に渡った加藤四郎左衛門が、尾張の瀬戸焼を創始した。学問の世界では宋学(朱子学)が主流となり、物事の道理や大義名分を重視する思想が広まった、いずれも文治国家であった宋の影響を強く受けた文化であると言えよう。

鎌倉時代の瀬戸焼(setoguide.jpより)

鎌倉文化は武士や庶民を主な担い手とした文化であり、地方武士の質実な気風が随所に見られる。合理性や写実性を強く求める一方で、超自然的な世界や異形の存在への畏敬も垣間見える。新仏教の興隆も重要な要素である。現代の文化との連続性が色濃く見られるのも大きな特徴であろう。当たり前のことだが、中世の延長線上に近現代があるということを、時には歴史をひもときながら実感するのも大切なことだと思うのだ。





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