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それでもなお

渋谷駅改札、紅い薔薇の花びらが何枚も、無残にも華やかに散り落ちていた。
引きちぎられ、踏みしだかれ、黒ずんでなお、紅く紅い存在感を放っていた。
儚く散ってなお、強く生きていた。

血を思った。
どこか妖しい美しさも思った。
抛ち、擲たれたものに、恐れと憧れに似たものを、同時に懐いた。

人波の流れのなか、避けることもできず、生死の同時存在するような花びらを、わたしも踏んだ。
血を踏んだ。美を踏みにじった。

それでもなお、美しいもの。
花が血を流しながら、香を立て、地を弔うのを感じた。

「深く生きたものは、深く死ぬ」
「生にも死にも、はかりがたい深淵がある」
ふと、そう思った。
思えたら、沈みかけた心が、すこし浮かんだ。浮かばれた。

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