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小説とか詩とか

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瑞野が書いた小説や詩をまとめています。短編多め。お暇な時にぜひどうぞ。
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2023年3月の記事一覧

小説『私たちは何処へ往くのだろうか?』第五話

初老の男とガタイの良い黒服集団、そして何かもぐもぐ食ってるデブの男。見たらわかる。父親と追っ手の集団である。とうとうラスボス登場か、と言わんばかりにレナは男たちに視線を向ける。 「おいユウ!いいから、こっちに帰ってきなさい!今ならお前のしたことは全部許してやるから、来い!」 「馬鹿言ってんじゃないわよ色ボケ親父!あんたは新宿二丁目のオカマバーでテキーラキメてケツの穴でも掘られてなっつの!」 「なんだその態度は!お父さんは二丁目になど行かん!歌舞伎町のぼったくりバーに行って店

詩「have your measure」

分かり合えないこと 本当はもっとたくさんある気がする 目には見えないだけで もっとたくさんある気がする。 それを分かり合えたふりをしても いつかボロが出るもんで 無駄だということもわかってるつもり どうして言いたいことを 僕は飲み込んでしまうんだろう その時間が無駄であることをわかっているのに なぜ意味もなく 体が嫌なものを避けるのだろう そこにある意味にも気づけないままに 限界まで伸ばしたメジャーが この世界の広さを訴えかけてる気がする これ以上伸ばせませんと言わん

小説『私たちは何処へ往くのだろうか?』第四話

車の中。フロントガラスには雨粒がぽつぽつと打ち付けていた。液晶時計は12時30分を差している。レナとユウは、腹ごしらえをするために路地の路肩に車を止めて、崎陽軒のシウマイ弁当を食べていた。 「なんで逃げなきゃいけないのにわざわざ崎陽軒なんですか。その辺のコンビニの弁当でもよかったじゃないですか。あと車止める意味もわかんないんですけど」 「いいじゃない、私崎陽軒大好きなの。それに、走りながらごはんなんか食べられるわけないじゃないのよ」 「…でも今じゃないと思います」 「あらあ

小説『私たちは何処へ往くのだろうか?』第三話

「彼氏には、別行動をお願いして。どこか一か所で合流してから行くより成田で合流した方が追っ手の目くらましにもできるしちょうどいいわ。それと、私大阪から有給取って来てるの。土地勘ゼロだしこっちの道そんなに詳しくないから、ナビゲートよろしくね」 2人はホテルの玄関を出た。 「そういえば、名前まだ聞いてなかったわね。私はレナ。あなたは?」 「ユウって言います。やさしいって書いて優」 「蒼井優の優ね。覚えたわ」 レナとユウは、雨の中ダッシュでレンタカー屋へと向かった。 ・・・・・

詩『esperance.』

裸の幹が緑の葉を獲り戻し 目の前の空を確かに覆っていく 高く登った太陽が東の窓から入り込み この世のすべてを優しく照らしていく 私たちが思う以上に世界は 命の鼓動に包まれている 何かが何かを支え合って この大地に立っている 朝の通り雨で出来た小さな水たまり 夕方にはもっと小さくなっていた いくつもの夜を越えて巡っていく 水は魂の体現者かもしれない 悲しみと喜びが幾度も繰り返し 人は歳を積み重ねていく 老いたくないとは思っているが 無駄な足掻きだともわかってる 過行く季節

詩『暗い夜はやけに落ち着く』

暗い夜はやけに落ち着く 視界を遮るカーテンがあるから 暗い夜はやけに落ち着く ひんやりした空気が心地良いから 暗い夜はやけに落ち着く 星が空に綺麗だから 暗い夜はやけに落ち着く 今日あった嫌なことを反芻して帰るから 暗い夜はやけに落ち着く 昔の友達に会いたくなるから 暗い夜はやけに落ち着く 自分を映す姿鏡みたいだから 暗い夜はやけに落ち着く 家から漏れる声がとても楽しそうだから 暗い夜はやけに落ち着く 家から伝わる匂いがうちのと違うから 暗い夜はやけに落ち着く