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パラダイス・シティ

Come stai? げんき?ハイ、ほほにキスさせて。


リキがいるなーと思ったので、90’sのメタルをYouTubeでかけた。で、なすべきことをせっせとして、作業に切れ間が出来たその時、
Guns’n’RosesのParadise Cityがかかった。


とたんに私はすべてをほうりだし、いつものランジェリーのまま(注:いくつか記事を読んで頂いてる方にはおなじみ、更年期の激しめホットフラッシュのため年中下着。冬でもだ)踊り始めた。
頭を振り、腕を上げ、脚を蹴り上げ、クルクル回った。私の「ダンス」なんて、子どものでたらめな動きそのものだ。夫・T兄言うとこのタコ踊り。でも、たまらない。とまらない。


曲は懐かしく、美しく、激しく。
スラッシュのギターは今も好きだ。
そして、くせの強いアクセルの声が歌う。


「パラダイスシティに連れてってくれよ」と。


1stアルバムは聴き込んだが、初来日ドタキャン事件でガッカリした。ご記憶の方もいるだろう。以来、聴いていない。私もまた若く、狭量だった。ファンにひどいことを、と冷めてしまって。


アクセルは、昔も、当時も、そして今もいる、たまたま幸運を手にしてしまっただけの悪童だ。
かれの魅力は悪童、ということであり、そのあと誠意を見せたりするなんてことは、当時は今よりもっと、そしてロックの世界では「コンプラ?なんだソリャ。俺がヤダって言ったらヤなんだよ」と突っぱねるもの…昔はもっと。別にロックに限らず、高名なジャズミュージシャンでもひどいのはあった。


「俺はトップを取ったんだ、だからいいんだ」。
ことにロックならば。
叛逆の音楽であるならば。


ただその90年代初頭当時、自分勝手な彼を叩く一般大衆は、今ほどではなくともしっかりいた。


私は、好きで聴いていたものの、あまりに自分勝手な理由で自分の赤ん坊を残して銃で自殺したニルバーナのカートを英雄視することが当時すでに出来ず、なんだなんだ?と戸惑っていた。


ねえ。
アンタ、27歳の伝説通りとはいえ。もう、魔法の60年代や70年代とは時代がちがうよ?
好きだったロックヒーローが、突如カッコ悪さの極地に墜ちてしまう情けなさ。同情することすらできなかった。アルバムをかける気にもなれなくなり、それっきりだ。無責任すぎると。


ジャニス、ジミ・ヘン、ジム・モリソンにマーク・ボラン。
今、手元にレコード・コレクターズ増刊、1998年発刊の『遺作』がある。それら大物を始め、ジョン・レノンやボブ・マーリー、尾崎豊から江戸アケミまで、それまでに亡くなったミュージシャンはほとんど網羅している。その生と死、その絶頂期の作品と遺作を。


みんなアートを目指していたはずなのだ。純粋に。
かれらは音楽という海に出でる、力強い漁師や海女だった。
そして、その音楽というアートの海には、あらゆる魔物が待っている。

名声、金、次から次へとヒットを求めるレコード会社とファン、己のアートへの探究心。それらが強大になるほどに強まる、失うことへの恐怖。エゴが肥大化した者ほど引き込まれやすいその恐怖から、水底で幽玄な珊瑚や人魚のように手招きするアルコールやドラッグの魔力にとらわれてゆく。
そして死ぬのだ。


昔々は、そんな魔物に引き摺り込まれて死んでも、英雄にしてもらえた。ロック、ジャズの偉人だってね。アルバムは売れまくり、伝記映画が作られ、ヒットし、彼ら彼女らは殿堂入り。おめでとさん。


今日びは、それほどおめでたくはないかな。
世間のみんなが、もう飽き飽きしてるから。「自分ばっかいい思いして、許さない」
それもまた、同じくらい狭い価値観で、じゃああなたはそのアートを愛してたの?いまも愛してるの?


アクセルは確かに態度はひどかったし、プロ意識に欠け、声もアクションも見た目も好みじゃなかった。
ただ、あの歌に関しては。


彼が、単純な悪童であればこそ、あの曲は生きてくる。


「パラダイスシティに連れてってくれよ
草はみどりで
可愛い女たちのいるところ」


永遠の、安らぎの場所。
茫とした、若者の描くその夢の楽園は、当時まだ若かった私にとっても同様で、そしてあまりに茫漠としていた。ああ行きたいのに。それはどこ?ほんとうにあるの?


でも確かに、あの曲の中にはあったのだ。
踊りながら、笑いながら、私は思い出していた。


一生求め続ける?
何を?
そもそも、まずあなたはどこに?
楽園に通じる近道は、それを知ることと、大切な何かを見つけること。
大切な何かとは残念ながら私には、ビバリーヒルズの豪邸でもなきゃ、メルセデスでもなかった。
いうことを聞く可愛いだけのベイビーでもなきゃ、自分が世界のトップに立つことでもなかった、と分かった日。生き残ったあの日。もう、私は若くなくなってた。だからどうした?


お日さまは照って、空は青くて、どうにかこうにか彷徨って住めるとこを見つけて、でも何より、愛すべきひとに出会って愛せてること。死が分かつことなんかとうに知っている。でも、もう分かったなら、たとえ流浪の身であっても私はしあわせなはずで、飢えや病に倒れても構わないはずなんだ。自分で納得してればさ。
胸に思う大事なものがあれば。
欲しかったのはこれ。
誰にも奪えない楽園。
私が死んでもね。


ロックは鳴り響く。いつもはもっと踊りやすいので踊る。でも、私にはつまんなかったロックスターよ、あなたの歌で踊った若い私がいたことは確かで、その時楽園は共有されてた。


ファンと、ステージの上とで。画面の向こうとこちら側で。とけあって。


人類はここ七万年、ろくに進化してないそうだ。頷ける。ニュース3分見りゃ分かる。昔ながらのおバカをやってる。


あなたが求めてる愛は、執着かもね。執着は愛じゃないよ?
恋人も配偶者も子どもも友だちも、「あなたのモノ」なんかじゃないし、そもそもあなた自身、あなたの思い通りになんてならないでしょ。世界ももちろん、そうはならない。


でも、自分の楽園を見つければ、何もかも思い通り。


私には、音楽と自然と、愛すること…愛されることではなく…が、楽園への道標となった。


道順は、教えられない。あなたが見つけるしかないから。私が教えたって、お気に召さないわ、きっと。
他の人の言うことなんて、聞きたかないでしょ、誰だって。

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