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Welcome to JAPAN


仕事をしていた頃の話。


現場は一般人が入れないビルだった。清掃作業は朝10時でいったん休憩に入る。短時間パートの人はそこで上がる。


先に上がる先輩二人がお喋りをしながら休憩室へ向かう途中、うち一人が眉をひそめている。どうやら今敷地内をウロウロしてる人がいたらしい。


「気持ち悪いわ。こないだもなんかぼけ老人が入ってきたじゃない?」
もう一人の女性はまあまあ、そのうち外へ行くわよとなだめている。
私は休憩後も上がらないので先輩方に先に行ってお茶を飲んでてくださいと言い、その人がいるらしい場所へ向かった。



いたのはまだ若い女の子で、明らかに困って途方に暮れていた。見た目は私たちと変わらないが多分日本語が分からないのだ。

「どうしました?大丈夫ですか?」
と英語で訊くと、彼女もつたない英語で返してきた。
「国で今日、友達の結婚式なんです。電報を送りたいけど、ここでは受け付けてくれないのですか?」



つまり看板だけを見て、ここはそういう会社だと思って入ってきてしまったようだ。ここは技術系の人が詰めるのみの建物で、そういう一般向けのサービスなら街のショップへ行かなければだが、多分来日して日も浅いようで分からなかったのだろう。
「まあ、大変❗️すぐ送ってあげなきゃね。待ってて」
電報って何番だっけ?
休憩室に走ってロッカーからスマホを出し、調べる。
あー、そうそう、この番号だ。
走って戻って彼女にまたつたない英語で訊いた。
「スマホあります?」
彼女は素直に出した。私は自分のスマホの画面にその番号を表示させ、ここにかければ送れるわ、きっと海外の方にも対応できるスタッフがいると思いますけど。と、言った。
彼女の顔がにこやかにほぐれた。私は唯一、その国で知ってる言葉を言った。
「あなたの칭(チング、友達)が幸せになりますように。出口とか、駅、分かりますか?」
彼女は微笑んだ。一応、分かりやすい外の街道まで送った。
「ありがとう」
「Good luck」



別の日。
ヘトヘトで上がり、まずは一服。
街の裏通りに喫煙所があり、飲みに行かない場合はそこへ直行。ふー。
すると、たまにあるのだがそこにフィリップ・モリス、iQOSの出店が出ていた。スーツ姿の男女が懸命に喫煙者たちにキャンペーンをしている。みんな文字通り、煙たがっている。



一人のスーツの女の子が私の方へ来た。
てか、私すでにiQOSだしなあ。ま、向こうもお仕事なのよ。
でも最新モデルや新しいタバコも気にはなるので、話を聴いていた。
「この辺でメンテとかってしてもらえたりします?」
「あ、もちろんです。お電話頂ければ」
彼女は名刺を渡してくれた。受け取ると、韓国名だった。
途端に彼女は下を向き、申し訳なさそうに言った。
「すみません、炎上の国で」
「何言ってるの❗️私BIGBANG大ファンなんだけど?」
すると女の子の顔から商売が消えた。
「お、お姉さん。誰推しです?」
「GDとテソン」
「ええー❗️私GD❣️」
しばらくそれで盛り上がり、彼女とは笑顔で手を振って別れた。
「またね、ここ来て私いたら声かけてよ」
「はい❗️」



実家がやってた居酒屋の常連さんの奥様で、とんでもない美女がいた。
彼女は自宅での宴会に夫婦で来た時、モデルのような長身をもじもじさせながらお勝手の母の所に来た。
「あのう、ママ。この青唐辛子味噌、どうやって作ったのか教えてください」
母はあーらと笑ってすぐ教え始め、彼女も熱心にメモを取っていた。



私のいま住むアパートの隣部屋の青年、そしてアパートの隣の家の家族はベトナムの人たちだ。先日突然、偶然上がった花火をみんなで外で見た。可愛いおちびちゃんがいるので飴をあげた。みんな笑っていた。



彼らと私たちの違い?
んなもん、ないじゃん。
ようこそ。日本を楽しんでね。

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