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『ウマ娘 プリティーダービー~Sprinters’ Story~』で太陽の眩さに打ちのめされた話

「太陽の話をしましょう。ダイタクヘリオスという名の太陽の話を」
鑑賞中、そして鑑賞後に思い浮かんだのはそんな言葉でした。

『ウマ娘』初の舞台演劇となる『ウマ娘 プリティーダービー~Sprinters’ Story~』を配信で鑑賞しました。
「主役はダイタクヘリオスで、舞台はスプリンター」「演出家は『レビュースタァライト』の児玉明子」と発表された際に「これ、間違いなく面白いし絶対見たい」と思ったものの、「1月は流石に厳しいものがある」という理由でソフト化まで待つつもりだったんですが、ありがたいことに千秋楽が配信されることに決まりまして。
「これはもう見るしか無いでしょう」と言う理由で鑑賞させていただいたんですが、これがまあ期待と評判通りの素晴らしい舞台で!
「公演時間:1時間55分」という短すぎる時間を駆け抜けていったウマ娘達の姿が、一夜経った今もなお「あの姿は閃光のように眩しかった」と言えてしまうほど美しく、そして素晴らしい舞台でした。

舞台は91年

今作で題材として選ばれたのは1991年でした。
1991年といえばトウカイテイオーが皐月賞と日本ダービーを制し、メジロマックイーンが天皇賞春を勝利した年ですね。
『ウマ娘』としてはアニメ第二期の序盤辺りがこの91年を描いていましたが、今作はそんなアニメ第二期ではほぼ描かれなかったスプリンター、つまり「短距離(あとマイル)を駆け抜けたウマ娘」にスポットライトを当て、永遠を想うには短すぎる距離に命を賭した彼女達の姿が鮮烈に焼き付く物語を作り上げました。
1991年が舞台なので、現在(そして現在を基にしたゲーム)とは結構違っていて、例えば現在ではスプリンター達が集う「高松宮記念」も、1991年では「高松宮杯」という名前の中距離2000mのレースでしたし、同名のレースも現在とは異なる条件となっております。
その違いの最たるものとしてはやはりスプリンターズステークスでしょうか。
G1に昇格した2年後が舞台となる本作では「有馬記念の前週」なんですね。
この違いにより「ゲームでは出来ない物語(今作)」「ゲームでしか出来ない物語」が誕生しているのは重要なところかなと思います。

タップダンスで表現されるレース

「やられたなぁ」と思ったのはレースシーンでしょうか。
『ウマ娘』は競馬をモデルにした作品なので、「レースシーンをどう表現するのか」は多くの人が気になっていたし、私も気になっていたのですが、まさか「タップダンスで表現する」と言うのは度肝を抜かれました。そしてこれが上手くハマっている。
実際の競馬場とか、それこそ競馬中継とかでもいいんですが、競走馬が走ると凄い音がするじゃないですか。ドドドド……という激しい足音が中継で見ていても聞こえてくる。
これを舞台で表現する際にタップダンス、つまり「足音が聞こえる」表現にすることで「レースの臨場感」が生まれているんですよ。スパートをかける時はタップダンスのリズムが激しくなることで「今スパートをかけてるんだな!」というのが聞いていても分かるので、レースの激しさがよく伝わってくる凄い演出でしたね。
またレースシーンでは、フォーメーションを変えることで「今コーナーを曲がってるんだな」とかも分かるし、バ群もきちんと形成されて目まぐるしく変わることで実際のレースのような激しい駆け引きが感じられるのも良かった。
これは自分の目で見てみないと分からない良さだと思います。

呪いを解呪する物語

今回の舞台の主役は紛れもなくダイタクヘリオスであることに疑いの余地はないでしょう。
でも今作の物語の中心にいるのはダイタクヘリオスではなく、ダイイチルビーとケイエスミラクルだったかなと思います。
と言いますのも、今作は「ダイイチルビーとケイエスミラクルの呪いをダイタクヘリオスのある想いが解呪していく」という物語なんですよ。
だからダイイチルビーとケイエスミラクルの「呪い」を観客に理解してもらえばもらうほど、解呪を担う「ダイタクヘリオス」という光が強くなる。
では肝心の「ダイイチルビーとケイエスミラクルの呪いとは何か」と言うことなんですが、これは「多くの人達に支えられることで走ることが出来た自分は、走る事で恩を返さなければならない」という使命感です。
『華麗なる一族』であるダイイチルビーも『奇跡を起こさなければならない』ケイエスミラクルも、「自分は多くの人々の支えと助力があって走ることが出来た。だからその恩を返すためなら辛くても構わない」と考えており、生来の真面目さと強すぎる使命感、そして結果を出せない自分への焦りから「本当に死んでしまっても勝たなければならない」になってしまっている。
そんなダイイチルビーとケイエスミラクルの「呪い」に立ち向かうのがダイタクヘリオスなんですよ。
彼女の「どんな時でも全力で楽しむ」という姿勢と「一緒に走れて楽しい」という気持ちがダイイチルビーを呪いから解放し、ケイエスミラクルを「一つの奇跡よりも多くの幸福(ミラクル)」が選べる存在に変えていく。
スプリンターズステークスで、仲間に支えられながらもケイエスミラクルが歩いてる姿に感動できるのは「幸福」を選んだからだと思うんですよね。

「ダイタクヘリオス」という太陽

今作で「凄いなー」と思ったのは、ダイタクヘリオスがやった事は「自分の思いを走りで伝える」ということだけなんですよね。
華麗なる一族の名に恥じない栄光を願い、自らの身体を一切顧みないほど強い使命感で走るダイイチルビーに「辛いだけなんて楽しくない。なら楽しんじゃえばいいじゃん。楽しければ、それって最強じゃん」をマイルCSでの走りで見せた。
役割としては本当にそれだけなんですけど、でもこのダイタクヘリオスがいないとダイイチルビーもケイエスミラクルも「使命のために死ぬ」を選んじゃうんですよ。「それが自分の役割だから」で命を燃やし尽くしてしまう。
二人の「この一瞬の栄光さえあれば死んでもいい」を止められたのはダイタクヘリオスがいたからなんですよね。
そしてダイタクヘリオスから想いを継承し、それをケイエスミラクルにも伝えようと思ったダイイチルビーがいたからこそ、ケイエスミラクルは幸福を選ぶことができたんですよ。
このダイタクヘリオス→ダイイチルビー→ケイエスミラクルの継承は『ウマ娘』が大事にしているテーマの一つ「想いの継承」でもあって、その想いを最初にこの世界に生み出したのはダイタクヘリオスである以上、やっぱりこれは「ダイタクヘリオスの物語」なんですよ。
使命感から闇に身を沈め、自らの世界を狭めてしまう者達に「世界はもっと広い。もっと楽しんでもいいんだよ」を示す太陽がダイタクヘリオスなんですよ。
だからこれは間違いなく「ダイタクヘリオスが主役じゃないと出来ない物語」です。そしてこのタイミングでピックアップするよう仕込んでいたサイゲームスめ。舞台で感動した勢いで回しかけた。

楽曲に文脈が乗ること

また今作では既存楽曲のウイニングライブが登場するんですが、楽曲は既に発表されているものばかりなのに、今回の物語が文脈として乗ることで全ての楽曲が刺さるものになるのは凄い体験でした。あまり体験したことがないものだったので死にそうでした。
「本能スピード」の「誰より今 強く駆け抜けたら 一番先で笑顔になれる」とか「今回のために書き下ろした楽曲ですか?」と思うぐらい作品を強く反映していたし、「Never Looking Back」もこれを歌っているのが……とか考えると決意の曲である強さが出ている。
特に良かったのは「GIRLS' LEGEND U」でしょうか。
「やっとみんな会えたね」が!強すぎる!
またウイニングライブはアレンジとしてタップダンスが組み込まれていたり、ゲームでも確認できる振付をそのままやっているのでここだけでも見てよかったですね。
ライブでもやらないですからね、あの振付の完全版。

結びに

改めて振り返ってみると、舞台『ウマ娘』は「舞台でしか出来ない」と「『ウマ娘』だから出来る」がしっかりとある作品だったと思うんですよね。
生身の役者が演じているからこそ「命を賭けた走り」をより強く感じる事ができるし、それが「ケイエスミラクル」という存在の痛々しさと目が離せなさを作り出している。
でもこの物語は『ウマ娘』だからケイエスミラクルは足を止める事を選ぶ事ができる。栄光のために自らの命を燃やし尽くすのではなく、仲間やライバルと共に明日また走るために休む事ができる。
この辺が理解出来た時、嬉しくて泣いちゃったんですよね。
「ケイエスミラクルは死ななくて済んだんだ。またケイエスミラクルの走りが見れるんだ」って。「無事是名馬」ですよ。
「ただいま」
「おかえり」
この何気ない短いやりとりの中に、深い物語を感じさせてしまうのも「スプリンター」という世界に生きた者達を描いた今作らしいところなのかもしれません。

そんな舞台ウマ娘もアーカイブがあるそうなので是非!
31日までは3000円で見れます!2月1日からは3800円!

10連回したと思って見てください!

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