【AIがすべての芸術を生み出すようになった社会】第22話

 二人がともに暮らし始めて三ヶ月が経過し、2223年の夏が来た。

「篝、どちらがいい?」
「ん?」

 ダイニングキッチンに立つ篝は、黒いエプロンが様になるようになってきた。そんな篝を手で招き、箱に入った二色の浴衣を青山が示す。青色と臙脂色の浴衣だ。

「これ、は?」
「お前の一つ目の希望を叶える。すぐ近くで花火大会がある。水風船の出店もあるそうだ。行くぞ」
「っ」
「どちらがいい?」
「わ、私! 臙脂色。青色の方が、青山には似合うから」
「俺にも着ろというのか?」

 確かにこれは、ユニセックスな浴衣で男女兼用の品だが、青山は身に纏う予定は無かった。

「え? 着ないの?」

 純粋な瞳で問いかけられ、辟易しつつ、青山は頷く。それが希望ならば、叶えなければならないからだ。

 こうしてその夜、二人はN73区画の花火大会へと向かった。

 人でごったがえしている。監視用・管理用の首輪にGPSがついているとはいえ、これでははぐれかねない。青山は、嘆息して篝の手を握った。

「離すな。はぐれる。水風船の屋台まで連れて行くから、大人しくしていろ」

 そう言って青山が歩きだすと、篝が僅かに赤面した。この程度で何を照れているのかと、青山は呆れた心地になる。ケアでもっと触れているだろうと言いたくなった。

「これ……これだよ! 水風船だよ」

 連れて行った屋台で、篝がしゃがみ込む。手を離して、後ろで仁王立ちした青山は、腕を組んだ。周囲を見渡し、不審人物がいないことと、ラムネが売っていることを確認する。ラムネは、幼少時に兄と共に祭りにきた際、買って貰った記憶があった。

「おねぇちゃん、風船掬いが上手いねぇ」
「えっ、本当?」

 篝の嬉しそうな声に視線を戻せば、店主と子供達に、篝が囲まれていた。本来、一般市民との接触は厳禁であるが、今回は特例だ。ふと、篝のうなじを見た青山は、むさぼりつきたい衝動に駆られる。色白の首筋、首輪が無ければ――それだけが、篝を芸術家だと感じさせる。浴衣の奥に見える白い肌が、妙に扇情的に思えた。


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