【AIがすべての芸術を生み出すようになった社会】第23話

「なぁなぁ、ねぇちゃん、名前は?」

 すると隣で風船掬いをしていた金髪の青年が、篝に声をかけた。

「篝だよ」
「へぇ。篝チャンか。俺とこの後、飲み行かない?」

 明確なナンパである。青山は呆れた。

「え、えっと……青山に聞かないと分からない」
「青山?」
「その人」

 篝が振り返って、青山を指さした。するとナンパの青年の顔が引きつる。

「俺の連れに何か?」

 青山が腕を組んだままで言うと、青年は首を勢いよく振り立ち去った。
 いちいち世話が焼ける。

 こうして見ていると、容姿端麗な篝には、ちらほらと視線が飛んでくる。凶悪な芸術家だとさえ感じさせなければ、篝はただの麗人だ。それが――自分の下でだけ、今は喘ぐ。芸術家としての才能を認めるのが、青山だけだからだ。

「篝、まだ満足できないか?」
「あっ……うん。もう大丈夫」

 水風船を手にした篝が立ち上がる。その位置からは、神社の境内がよく見えた。今のところ、まだ無人らしい。

「少し休もう、こちらへ」

 篝がついてくる。その手首を握り、青山は神社の境内まで歩いた。そして音を立てて戸を閉めると、床の上に篝を押し倒した。水風船の一つが割れた。

「青山……?」
「随分と隙だらけだったな」
「え?」
「さて、お前は水風船で遊んで満足できたようだが、俺はまだ満足できていない」

 そのまま青山が篝の浴衣を剥く。すると篝がビクリとした。
 篝が、怯えるように青山の首に腕を回す。
 そこで青山の理性が途切れた。というより、理性の存在を意図的に消失させる。

 ケアの他にも、特別刑務官は、性処理にバディを利用する事が、法的に許可されている。
 本来はケアをしていて煽られた場合に備えての条項だが。

 なお青山は、本日の衝動の意味を、正しく理解していた。ただの、嫉妬と独占欲だ。


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?