夢は多く、いつまでも
ぼくには将来の夢がたくさんあるんだ。少し読んでくれるかな。
朝はおいしいものを食べたい。湯気の立つ(もしくは冷たく鳴る)コーヒーを用意したい。昨日のうちに買っていたおいしいパンを温めて、お気に入りのお皿にのせたい。ジャム瓶の重さに、幸せを感じたい。外でモーニングを食べたいとも思うけど、それはたまにあるご褒美にしておきたい。
文章を書いて生きていたい。絵を描く人生がいい。眩しいことも苦いことも、ぜんぶぜんぶ、受け止められるようになりたい。かかなければ受け止められない。どこかの誰かが残した「かかなければ私は死ぬのです。心が、息をしなくなる」ということばを、ぼくは本当にその通りだと思って、このことばにふれたときの息苦しさ、切なさ、愛しさを、今も大切に憶えている。
休みの日には、好きな人たちと一緒に水辺に行って石を拾いたい。「1時間後に」と約束して散り散りになり、しゃがみこんで頬を熱くしたい。そして、木陰にレジャーシートを広げて、集めた記憶に想いを馳せようね。オレンジ色に輝く君は、きっと、オレンジ色の魚に鱗をわけてもらったのだろう。
ふとしたときに好きな人たちを撮りたい。笑っているとき、考え事をしているとき、何かを頬張っているときを、君が生きていること、ぼくが隣にいることを、大切に残しておきたい。次に出かけるとき、ぼくはいっとうお気に入りのワンピースを着る。だから、へたくそでいいから、一枚でいいから、ぼくの写真を残してほしい。これだけは、お願いしてもいいかな。
家の近所には、こぢんまりとしたケーキ屋さんがあってほしい。甘い空気に包まれて、ショーケースの向こう側を覗き、白く照らされた宝石たちを眺めたい。ケーキとは、自分は大丈夫であるという証だから、大丈夫でありたいときはケーキを買う。白い箱の中にちょこんとあるケーキを大切に持って家路につき、夕方には、おいしいおいしいと笑顔になりたい。
部屋の隅には、小さな本棚を置きたい。毎週本屋か図書館に行きたい。本棚は全く足りていなくて、床に本の山が点在することになるけど、それでいい、それがいい。
好きな音を聞いていたい。音楽、映画の主人公の足音。お皿の重なり、ペンと紙のふれあい、石磨き、シャッター、甘いドアの鈴、本棚の軋み。好きなものからこぼれる音はすべて美しいということを、ぼくは君から教わった。
静かで寂しい夜に負けない人間になりたい。
部屋を暗くしても怖いことを思い出さず、目を閉じても昔の自分を責めすぎず、明日に希望をもち、ぼくを好いてくれている人に感謝しながら眠りたい。かたく丸めた毛布を抱きしめて越える夜は、もう飽きてしまった。せっかくの青く清らかな朝のひかりを、変わらぬ幸せではなく、救いにしてしまうのはもうやめたい。
夢が多くて困ってしまう。すべて、ぼくの幸せのためなのに、難しくてしょうがない。でも今だけは、夢を語っているときだけは、難しいことはぜんぶ忘れていたい。
あなたの夢は何ですか。語りたくなっている人は、ぼくにこっそり教えてくれますか。手紙でもなんでもいいからね。教えてくれたら、ぼくは「それいいね」と微笑み、あなたにケーキを送ります。