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たまごボーロ

ツクルくんはマツリさんより半年前に生まれたマツリさんのいとこ。マツリさんが子供らしい感情をむき出しにできる貴重な相手でした。

誰もがマツリさんに注目している中、ツクルくんが遊びに来るとイダテンさんもツヅミさんも、すっかりツクルくんに夢中になってしまいます。
ツクルくんは産まれた時から髪がフサフサして目がパッチリ。その上ミルクはビーンスタークしか飲まないというグルメな赤ちゃんです。

ママ友サークルでさぁ、ベッカムに似てるって言われたけど、どう思う?似てるかなぁ?髪型が似てる?と妹のキイロさんがニマニマと言うとツヅミさんは、どれどれと嬉しそうに抱っこし、イダテンさんは、ツクルー!ツクルー!と側で親衛隊のように連呼しているといった具合でした。

まだ歩けないコロコロしたマツリさんも感じるものがあるのか、意図的に?と疑いたくなるほどタイミングよく口で振り回していたおもちゃをツクルくんの顔面にぶつけては泣かせてしまうという事故が何度か発生していました。
とはいえ、2人は成長過程を共に過ごし子供だけの世界で歌ったり踊ったりと仲良しで、写真を見ているだけでも当時を思い出すと泣きそうになります。
笑顔の2人のはじの方に不貞腐れたミコシさんが小さく写っているのがまたおかしくて、
お父さんと結婚するーと言うマツリさんはミコシさんの両想いの恋人のようだったので、ミコシさんのツクルくんへの敵対意識は尋常ではなくいつも不機嫌極まりなく困ってしまったものでした。

ツクルくんはマツリさんの同級生でありお兄ちゃんだったのかもしれません。
その日も実家へ遊びにいくと、ツクルくんが来ていました。キイロさんが小さい頃好きだった懐かしいパッケージのたまごボーロをぼろぼろとあたり一面にこぼしながらにこにこと食べています。マツリさんを見ると笑顔で近づいてきました。

はっ、とし急いでマツリさんを抱き外にでました。
たまごアレルギーなんだよ。他のお菓子にしてよ。食べてる手で触られてもいけないし、落ちてるのを間違えて食べたら死んじゃうかもしれないよ。
厳しい口調で一方的にまくしたてるとツクルくんはキョトンとした顔をし、数秒後、ワァーっと泣き出しました。

ツヅミさんは、そうそうたまごアレルギーなのよと掃除機であたり一面を吸い込みはじめます。キイロさんはぬれたおしぼりでツクルくんの口の周りや涙を拭き取ると
ごめんね。今日は帰るわ、と立ち上がりました。
マツリさんは遊べないの?遊ばないの?と繰り返し、私もそのまま自分の家へと向かっていました。

互いに気まずいのと同時に、マツリさんが集団生活のなかでみんなが普通にできることが命取りになるかもしれないと思うと悔しいやら申し訳ないやら
楽しいおやつの時間の共有もできないなんて、と知らない間に涙が溢れてきました。
ママ大丈夫?ママどうしたの?と繰り返すマツリさんを抱っこして家に着くと一人大泣きをしていました。

知らないうちに眠ってしまったようです。マツリさんも隣で眠っていました。
トントンと窓を叩く音が聞こえたので顔をあげるとイダテンさんが爪先立ちで中をのぞいていました。
少し窓を開けると
キイロにも話しておいたからな。大丈夫だからな。心配するな。マツリを大事に見てやれよと温かい笑顔で言い、気持ちを大きく持って、と両手を大きく上げながら深呼吸をしました。
じゃあな、また遊びにこいよ!とランニングポーズで腕を振り、そのまま颯爽と走って行きました。

ママ、お腹すいた、とマツリさんがいつの間にか目を覚ましていました。とりあえずアレルギー用のさつまいもクッキーをお皿にだすと嬉しそうに食べ始めました。

この事件があってからは、キイロさんは、いつもマツリさんが食べられるものだけを実家に持ち込み、心配な時は確認してくれました。当時は当たり前のように思っていたキイロさんの優しい配慮のおかげでマツリさんもツクルくんと一緒におやつを食べたり遊んだり子供同士の大切な時間を過ごすことができました。ツクルくんの弟のロダンくんが産まれてからもそれは変わらず、3人で過ごす時間はマツリさんにとってかけがえのないキラキラした思い出になったようです。

次回は、さらにマツリさんの世界が広がっていきます。

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