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映画「キングダム」の時代があったからこそ、いま我々はこの漢字を読んでいる

古代中国を舞台とする「キングダム」はどんな映画?

「キングダム」ってどんな映画なんでしょう?意外と知らずに見ている人が多いようです。

わかりやすく例えると、ヨーロッパの国を全て統合して「ヨーロッパ」という国を作るというレベルの荒業を、現在の中国でしかも2,200年前にやろうとした、秦という国の破天荒な王様のお話なんですよね。その頃の日本は弥生時代です。

このときの統一がなかったら、今の中国は数カ国程度に分かれていた可能性もあります。つまり、現代の中国はいまだにこの頃の帝国をいまだ引き継いでいるのです。

秦による文字の統一

日本人から見て「中国人」は皆同じ見えますが、実際はそんなことはありません。

下図を見るとわかるように、2,200年ほど前は地域によって言語や漢字も違いました。(同僚の中国人によると、現代は漢字は共通であるが発音や文法は地域により異なる)

画像引用:小篆 秦の漢字統一 馬の例
『中国中学校の歴史教科書』p.150

国土を政治的に統一したときに、文字や度量衡なども統一したのが、映画に出てくる秦の大王様こと政(のちの始皇帝、演:吉沢亮)です。

なぜ文字を統一したのかというと郡県制という仕組みを採用したからです。現代の日本で例えると、首相が各都道府県知事を一代限りで任命し、各地に派遣する仕組みです。世襲はNG。とすると、郡や県によって行政文書の文字が違うと困っちゃいますよね?

今でも使われる小篆

このとき整理された文字体系を「小篆(しょうてん)」といいます。日本人なら一度は見たことあるはずです。

そう、パスポートや印鑑などに使われている字ですね。

身近な小篆の例
(いまだ公式な書類であることを示すために使われる)

以前、漢字の歴史の展示会に行った際、秦の前と後では認識できる文字の比率が圧倒的に違うことに気づきました。秦がつぶした楚の文字は読めませんでした。

こういうところでも、勝者の文化に染まっている我々を痛感しますね。

小学校での漢字教育が面倒くさい理由

秦は厳格な「ルール」を重んじる国です。ルールによっては破れば即死刑。したがって、小篆も同様にルールでがんじがらめになっています。

いまだ私たちが学校で書き順や点の有無など、細かく、厳しくチェックされるのも秦のルール主義のせいだと私は本気で思っています。

戦国時代の楚国では、大小の小と多少の少を区別しなかった。だから、もし秦ではなく楚の漢字の使い方を漢が継承していたら、わたしたちも「少学校」や「小年」と書いても書き取りで×を貰うことはなかったはずである。

中国出土資料学会編(2014)『地下からの贈り物』東方書店

というわけで、あのゴタゴタの戦争からの秦による統一があったからこそ、いま私たちは「この」漢字という文字を読み書きをしているのです。

そう考えると、あの映画の見方も変わってきませんか。

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