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唐揚げがおいしそうにお油に入っていた(現実と妄想の混合)

職業柄、揚げ物をしている時間が長い。少しずつレシピを変えて、こっちの方が肉がジューシーだの、衣がサクサクだの、後で同僚と評価するのだ。評価時は2人以上だが、作る時間は基本一人なので、要するに、"頭の中フリーダム"の状態となる。今日は唐揚げを揚げていた。唐揚げを作る際は、まず生の肉の重量を測定する。次に、調味料の入った液体に漬け、漬け終わった後の重量を測定する。その後、打ち粉をして重量測定、衣をつけて重量測定、フライして重量測定と、とにかくすべての工程で重量を測定する。この数値が後に重要になるのだ。ただ、この煩雑な作業も、慣れてくると無意識でできるようになり、"頭の中フリーダム"の状態に入ることができる。他に調理室に人がいない場合は、鼻歌を歌ってもよい。鼻歌を歌いながら、すべての工程を完璧に行えると、ただ楽しいだけの時間が出来上がる。しかし、今日は他にも人がいたので鼻歌は却下され、また、フリーダムの悪用がされており(さっきまでの打ち合わせのもやもやが原因)、ミスもあった(何とかなる程度)。疲れた私は、べたべたのゴム手袋をつけて、べたべたのかす揚げを握りしめ、タイマーが後30秒を過ぎたところで、首を斜めにして、唐揚げがぶくぶくと揚げられているのをただ見ていた。

揚げ物の中でも唐揚げは、揚げられている姿がかわいい方だと思う。かわいいかかわいくないかの軸じゃないと言われそうだが、少なくとも私はそう思っている。ぶくぶくと泡が止めどなく出ていて、浮くでもなくコロコロと転がったりしている。油がぶくぶくしているのを見ていると、まるでぶくぶくの出るお風呂に入っているような気分になる。170℃もの油を大浴場に見立てていた。唐揚げは本当は、おじいちゃんたちの集まりだった。会話している集団もあれば、一人で隅で目をつぶって動かない人もいる。見た目は大体同じだが、よく見ると細長いおじいちゃんもいれば、まん丸のおじいちゃんもいる。隅っこに一人でいたおじいちゃんは、ぶくぶくも大体出たし、そろそろ上がろうかなと腰を上げる。とその時、大きな波が押し寄せてきて、みんなが会話をしている真ん中に流されてしまう。困ったおじいちゃんを他のおじいちゃんが囲みながらやさしく笑っている。タイマーの音が鳴り、私はまとめたおじいちゃんたちをそっと網ですくいあげた。今日の仕事が終わりに近づいている。べたべたのゴム手袋は手首の方までべたべたで、私もお風呂に入りたいと思ったが、こっちは男性の方だった。残念。妄想を女性風呂にしておけばよかった。早く片付けよう。かつてはお風呂仲間のおじいちゃんたちが、今はカラッと揚がった唐揚げたちとなり、胸を張ってそこにいた。『私たちはみんなに大人気の唐揚げですぞ。』ははあーと頭を下げて、網の上に5個ずつの列になるように丁寧に並べた。片づけが終わり、べたべたのゴム手袋、つまり、肉体労働の結晶を、ごみ箱に捨てたとき、王様のようだった唐揚げたちの威厳がなくなっていた。ちょうどよい温度まで冷めたようだ。私はそれらを袋詰めして、-30℃に入れた。評価は明後日になります。5月17日。

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