1月27日の日記

 もう大学院2年生の春であるが、まだ就活を続けている。去年の夏に内定は貰ったが、コッソリ内緒で続けているのだ。今どき求人をリクナビやマイナビで探しても見つかるわけがないので、俺は転職サイトを利用することにした。
転職サイトには、案外新卒でも応募を受け入れてくれる会社が沢山あるのである。
そのうちのひとつにWebライターを募集している会社があった。事業内容に情報商材を掲げていたり、社長が胡散臭かったりと、何となく怪しげなところではあるが、長年夢であった文章を書ける仕事の前では背に腹はかえられない。応募することにした。
 会社からは数日経たずに返事が返ってきた。俺が大学院生であることを説明すると、それでも構わないと、寛容に返してくれた。会社の採用担当は、ライティングテストと称して、会社発行のWebマガジンを、数ページのファイルでまとめろと課題を出してきた。文章のテストなら得意かと思い、俺は軽い気持ちでそれを受けた。期限は1週間である。
 案の定1週間の最後の日まで何もしなかった。他の用事があったにはあったが、要するに俺は舐めていたのである。思ったよりこの課題が重労働だと気付いたのは、ようやくWebマガジンを読み始めた〆切前日のことであった。
 まとめる、という作業は、学校の総合の時間の感覚で、俺の中では止まっている。何となくやっつけでやっていれば、生来の文章の上手さもあって先生は高得点を付けてくれるだろうと。しかし社会に出ると、プロの水準を求められるからいけない。俺はまとめの段階で焦っていた。Webマガジンの内容は、まとめるには少なすぎず、はしょるには多すぎる。もっと前からやっていれば良かったのに…という愚痴は今さら言ってもしょうがないが、何ゆえいつもこんな調子で失敗してしまうのか。俺はもう何時間もパソコンの前で背中を丸めていた。同じ態勢でいたから、身体のあちこちが軋む思いであった。
 〆切は今日の0時である。今が21時だから、まだ本気を出せば時間に余裕が出来るか?とまたしても楽観的な展望を見出だした俺は、母に電話をかけることを思い付いた。母に電話して、ライティングの構成の意見を伺おうと思ったのだ。そもそもズブの素人である母に聞いてもしょうがないのだが、俺はとにかく果てしなく終わるともしれない課題の不安から、少しでも解放されたかったのだ。そんな暇があるのなら作業に取り掛かればいいのに、しかし俺はとにかく逃げの選択肢を選び続けるのであった。
 母が電話に出る。意見を聞いた。案の定、母は困惑していた。俺は構成はコレで良いか?と聞いた。コレで良いのではないか?と母は同意した。母は優しいし、他にどうすることも出来なかったであろう。俺は何となく、コレで良いのだと思った。ついでに、社長の素性が何となく怪しいことについても話した。母は、そんな怪しい会社、選考に落ちても落ちなくても良いのではないか。と言った。俺は何となく、確かに落ちても落ちなくても一緒だと思った。
 ライティングの課題は、結局お世辞とも完成したとは言えない状態で提出した。まあ、やれるだけのことはやったのだ。課題のファイルを添付して、会社の人事のアドレスに送信すると、身体からスーーっと力が抜けていくのを感じた。パソコンを片付け、布団を被り、仰向けになりながらスマホに触った。格別の味がした。

#日記 #随筆 #就活  
 

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