見出し画像

てぃくる 866 涙の色

 希望という皮を被った絶望という獣がいる。
 そう言って悔し涙を流していた女がいた。


 だが。
 本当に絶望している者は涙など流さない。
 いや、もう流せる涙など一滴も残っていない。

 私がそう言ったら、彼女は黙った。

◇ ◇ ◇

 しばらくして偶然彼女と再会した。
 彼女はまだ涙を流していたが、それは嬉し涙だった。

「わたしの絶望を癒してくれる希望を見つけたの」

 よかったね。私は心から祝福した。
 彼女の涙の色が、いつか別の色になるだろうと思いながらも。

 だが、それでいいのだろう。
 涙には色がない。
 心の色をそのまま写すだけなのだ。

 そして重要なのは涙が何色かではなく。
 涙を流せるということなのだから。


涙にはなれずぽたりと雪落ちる

(2022-01-03)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?