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赤ずきんちゃん事件(ちょっと残酷な童話)

むかしむかしあるところに、心のとっても純粋な女の子が住んでいました。

いつもシミひとつない白いずきんを被っていたので、みんなから白ずきんちゃんと呼ばれていました。白いずきんは全部で7枚あって、少女はそれを毎日替えていました。

白ずきんちゃんには一人暮らしのおばあちゃんがいました。おばあちゃんの家までは白ずきんちゃんの足で1時間歩かなければいけません。それでも白ずきんちゃんは毎日おばあちゃんの家にお手伝いに通っていました。

お掃除、お洗濯、お料理と毎日よく働きました。今と違って掃除機も洗濯機も電子レンジもない時代です。はたきを掛け、ほうきで掃き、雑巾がけをします。続いて休む間もなく近くの川へ行って洗濯をします。それが終われば、今度はお昼ご飯を作ります。薪に火を焚べてご飯を炊き、野菜を切り少量の油で炒めます。小さな白ずきんちゃんにとっては、どれも重労働です。朝一番に始めても、すべて終えるのはいつも正午過ぎになります。

一番つらかったのは冬の洗濯です。川の水は凍りこそしませんでしたが、手を入れると針を刺すように冷たいのです。白ずきんちゃんの手はアカ切れで、とても痛々しく見えました。

しかし、そんな白ずきんちゃんに対して、おばあちゃんはすぐにケチをつけます。やれゴミがまだ落ちているだの、やれ洗濯物がしわくちゃだの、やれ野菜がまだ固いだの、言いたい放題です。

でも、そんなひねくれたおばあちゃんに対しても、白ずきんちゃんは文句ひとつ言わずに毎日お手伝いに通いました。おばあちゃんの小言や嫌味も、心優しい白ずきんちゃんはまったく苦にしていませんでした。病気がちで一人暮らしのおばあちゃんには話し相手が誰もいないから、きっとイライラしているのでしょう。だから、自分が話し相手になってあげないといけない。小言や嫌味くらいは聞いてあげないといけない。白ずきんちゃんはそう考えていたのです。

白ずきんちゃんには両親がいましたが、両親はとっくの昔に、ワガママなおばあちゃんに愛想を尽かして、もう何年も顔すら会わせていなかったのです。それではおばあちゃんがかわいそう。だから、白ずきんちゃんはわざわざ往復2時間もかけて、おばあちゃんの家に行くことにしたのです。

その朝、白ずきんちゃんはママとケンカをしてしまいました。原因はおばあちゃんのことでした。もうおばあちゃんの家には行くなとママは言うのです。ママとケンカなどしたのは生まれて初めてのことでした。いくら心優しい白ずきんちゃんでも、いつも笑顔でいられるわけではありません。

「なぜ、ママはあんなことを言うのだろう?」
「なぜ、ママは私のしていることをわかってくれないのだろう?」
白ずきんちゃんは泣きながら、おばあちゃんの家に向かいました。そのため、いつもよりおばあちゃんの家に着くのが遅くなってしまいました。

「ずいぶん遅かったね。どうせあたしのことなんて、どうでもいいと思っているんだね」
早速、おばあちゃんが嫌味を言います。
白ずきんちゃんは素直に謝って、すぐに掃除を始めました。でも、はたき掛けしていても、朝のママとのケンカが頭から離れません。つい、おばあちゃんの顔にホコリをかけてしまいました。
「何をするんだい。あたしを呼吸困難で殺すつもりかい?」
おばあちゃんはここぞとばかりに怒ります。
白ずきんちゃんは素直に謝り、床掃除を始めました。でも、ここでもママの言葉を思い出してしまいます。
「ほら、そこにゴミが落ちているだろう? あんたは目が見えないのかい?」
白ずきんちゃんは素直に謝りました。
洗濯する時間はありませんでしたから、お昼ご飯を作ります。
「まったくあんたは怠け者だね。どうせ洗濯するのがイヤで、わざと遅れてきたんだろう?」
薪に火をつけて、野菜を切ります。やはりママの怒った声を思い出してしまいました。
「薪が消えているよ。本当にあんたは何をやらせても中途半端だね。この役立たず」
おばあちゃんが怒鳴りました。

その怒鳴り声はママの怒った声にそっくりでした。
その言葉に白ずきんちゃんのガマンは限界を越えてしまいました。
「どうして私のことをわかってくれないの?」
白ずきんちゃんはとうとう爆発してしまいました。

白ずきんちゃんはテーブルに置いてあった果物ナイフで、おばあちゃんを何度も何度も刺しました。お掃除したばかりの床に、おばあちゃんの血が飛び散りました。
「せっかくお掃除したのに。またおばあちゃんに叱られる」
白ずきんちゃんは慌てて、被っていた白いずきんで床を拭きました。

おばあちゃんはもう息をしていません。それでも白ずきんちゃんはずきんで床を拭き続けました。白ずきんちゃんのずきんは、おばあちゃんの血で真っ赤に染まっていました。

白ずきんちゃんは未成年だったので、本名は発表されませんでした。そのため、新聞はこの事件を「赤ずきんちゃん事件」と呼びました。

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