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加藤シゲアキ『ピンクとグレー』読了

序盤から第9章までと、第10章からラストまでとでこれほどイメージが変わった小説は初めてかもしれない。

一度挫折して、他の本を読み始めてみた。理由は、その平坦な文章がまるで他人の日記を読んでいるようで、表現が雑なところも見えたからだ。芸能人だから本になったんじゃないかと、やっかみ半分でそう思ってしまった。
しかしXの読書記録の中に、後半から怒涛のように小説が動き出す旨書かれていたのを思い出し、再び読み始めた。

僕とごっちの大親友二人が芸能界に入り、一方は超売れっ子になり、もう片方は売れない役者になるという、その雲泥の差が誤解を招き、二人は決別してしまう。
それが同窓会での再会、その後の二人のバーでの場面へと続いていくうちに、僕はごっちに対して嫉妬から同情へと心を動かされる。そして、終盤に向かって一気に話は進んでいく。

主人公の僕と親友のごっちは、加藤シゲアキの心に現れた正反対の感情を表わしているのだろうか。
著者自身、芸能界だけで生きていくことにより、自分を見失うことへの恐怖心があり、それが小説家を目指すきっかけになったのかもしれない。だから、感情がストレートすぎて、青臭い面が出てしまっている。

ただ、著者はその後、いろいろなジャンルに挑戦しているらしい。直木賞候補作になった『なれのはて』など、別の作品も読んでみたい。
希望とすれば、著者が50歳になったとき、また同じテーマで小説を書いてもらいたい。
たぶん円熟味の出た良い作品になるだろう。ただ、そのときは青臭さも少しは残して欲しいとも思う。

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