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ザ・ショート・ショート・ショート9

<僕のビーナス>
「太陽の光をまとって輝く僕のビーナスよ」
「あら、ありがとう」
「みんなが君を見て振り返るよ。だからもう僕の部屋へ帰ろう」
「ええ、まだ来たばかりじゃない」
「だって君は太陽の光をまとっているけど、他には何も身に着けていないんだよ」


<生き返らせ師>
「あなたが旦那を生き返らせたいというのだな?」
「はい。本当に夫を生き返らせることができるのですか?」
「私は今までに100人以上の死者を蘇らせてきた。安心するがいい」
「よろしくお願いいたします」
「但し、1つだけ条件がある」
「なんでしょうか?」
「旦那を蘇らせるにはあなたの寿命を縮めなければならない」
「はい。それでも結構です」
「それでは旦那を何年間生かしたいんだ?」
「3年間生かしてください。息子が社会人になるまでは死ねないといつも言っていましたから」
「よし、わかった。それでは髪の毛一本抜いて渡してください」
女は髪の毛を一本抜いて男に渡した。
「うーん、どうしたものか」
「どうしたんですか?」
「あなたの旦那を3年間生かすのは無理のようだ」
「なぜですか? さっき生き返らせると言ったじゃないですか」
「それがな、あなたの寿命が2年しか残っていないのだ」


<遅刻魔>
彼女が手を振りながら彼氏の元に走り寄った。
「ねえ、待った? また遅刻してごめんね」
「大丈夫だよ。本を読んで待っていたから、全然気にならなかったよ」
「なんていう本を読んでるの?」
「『人は何故遅刻するのか』って本だよ」
彼氏が答えた。
「やだー、それって皮肉?」
「違うよ。人が遅刻する理由を科学的に説明している本なんだよ」
「その本を読むと遅刻しなくなるの?」
「まだ読み始めたばかりだからわからないよ」
「それなら先に私に読ませて。遅刻するのはいつも私なんだから」
彼氏は彼女に本を渡した。
「じゃあ、行こうか。映画が始まっちゃうから」
彼氏が歩き出した。
彼女は彼氏が背中を向けているのを確認してから、本をゴミ箱に投げ捨てた。

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