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村田沙耶香『殺人出産』を読んで

人類の想像力は新たな科学を創造し、新しい文化を創造してきた。そして、村田沙耶香の想像力は小説『殺人出産』を創造した。

人は世の中の変化を身をもって体験し、感受性が磨かれていく。しかし、村田沙耶香は今の変化を敏感に体験するだけでなく、そこから更なる未来を創造していく。

時代は先送りされてきた少子化問題に、ようやく政府が対応を急ぎ始めるほどの危機的状況にある。少子化問題の行き着く先は人類の滅亡である。このまま何もしなければ、人類は絶滅危惧種となってしまう。人類の叡智はこれを防ぐことができるのか。そのひとつの解決策を筆者はこの小説で提示している。それは一般の人からみれば常識はずれの解決策だろうが、常識というものは時代によって変わるものだし、人類の想像力は今までも常識を変えていった。

旧主流派はそれに反対の声をあげるが、時代の流れを止めることは誰にもできない。村田沙耶香は旧主流派に手厳しい。

十人産めば一人殺していいという生産システムは、いわば現在の効率性第一主義とも合致する。これより結果の出る解決策を考えられる人はなかなかいないだろう。だからこそ村田沙耶香の小説はぶっとんでいるようで、緻密に計算されていて面白い。

同書には『トリプル』という短編も掲載されている。これも現在の常識に揺さぶりをかける想像力豊かな作品だ。

村田沙耶香ここにありといえるような、常識をぶち破っていく小説を、これからもたくさん読んでみたい。

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