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松井玲奈『累々』読了

SKE48の元メンバーの一人がどんな小説を書くのか興味があった。もちろんひとつのグループだからといって、みんな同じ性格や経験値を持っているわけではないのだから、そこには私自身の偏見も混ざっているのだろうが。(加藤シゲアキの『ピンクとグレー』を読む前の、どんな出来か見てやろうという上から目線な意地悪な態度。)

素直な文章を書く人だなと思った。優しい言葉で自分の感情を書ける人だなと思った。そして、女性としての感受性が豊かな人だとも思った。

自分の思いを素直に書くのは難しい。特に芸能人ならば芸能人としてのもう一人の自分が邪魔してしまうに違いない。

小説には必ずプライベートな自分が現れる。人は誰もが心に闇を持っている。小説は潜在的にそれを晒す行為になる。

そういう前提に立ってこの小説を読むと、松井玲奈の勇気というか、小説家としての本気度を感じる。

著者は芸能界という虚飾に満ちた世界に疲れていたのかもしれない。そして小説家という天職を見つけた。

というわけで、この短編集のすべてには松井玲奈の一部が入っている。

小夜は自分に自信がなく、そのためかいろいろな自分を模索している。パンちゃんだったり、ユイだったり、チィちゃんだったり。

たぶん著者も自分に自信がなかったから、違う自分を知りたくてSKEに入ったのだろう。そしてその後、アイドルを卒業し女優になり、新たに小説家となった。

著者の本を初めて読んでみて、松井玲奈が自分に自信を持てるようになれるのは、小説家としての自分になるだろうと感じた。小説家として才能のある人、その道でしっかり結果を残せる人、私はそう思ったから。

最後に。
始めは結婚するのに躊躇していた小夜が、最終的に選んだのは結婚だった。しかし、躊躇いを感じていたときの小夜と、結婚を決めた後の小夜はまったく別人のようだった。「誰かの望む人」から「自分らしく生きている人」に変われたのは、やはりパンちゃん、ユイ、チィちゃんだったときの経験があったからだと思う。

好きな作家がまた一人増えた。『カモフラージュ』も読みたい。

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