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短編小説、物語いろいろ

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「巴の龍(ともえのりゅう)」「love's nigt」「ある独白(我が永遠の鉄腕アトムに捧ぐ)」「カオル」「甲斐くんの憂鬱」続々増えるよ
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2021年11月の記事一覧

ある独白♯1

葛城(かつらぎ)博士邸が取り壊される。 敷地等買い取られた財産すべて、 しかるべき福祉施設等に寄付される。 その情報が耳に 入った時 私はまよわず 葛城邸に向かっていた。 葛城邸は人家より少しそれた山の入口に ひっそりと建っていた。 昔の洋館を思わせる作りで、 大きな門は開いていたが、 広い庭は ついこの間まで 手入れされていた様子が 読みとれた。 私は門から玄関までの数分の道筋 まだ家主が生きているか不安になった。 明日は取り壊し予定日。 家主は

ある独白#2

私は玄関をあけ、 声をかけた。 返事はない。 そろそろと暗い広間を歩き 階段を見つけると おそるおそる上がっていった。 声をかけながら ひとつ ひとつ 部屋を開ける。 研究所らしき部屋、書斎、ベッドルーム・・・ 家主はらしい姿は見えない。 いくつ目かのドアを叩いた時だった。 「どなたですか。 ここは もう人の来るところでは ありません」 老人のしゃがれた声が聞こえた。 そこは おそらく 夫婦のくつろぐ部屋だったのでは あるまいか。 ゆったり

ある独白#3

「ジャーナリスト? 女性の方がこんな山奥まで・・・。 いったい このわたしに  何のご用なのですか?」 「・・・お話を聞かせてほしいのです」 「話・・・ですか?」 「あなたは葛城博士が六十年ほど前、 最初に作られた RP7(アールピーセブン)型ロボットですね?」 彼はうなずいた。 「はい、そうです。 わたしはRP7型ロボット・ リュージ」 「あなたが作られてから、この六十年の間に あなたに起こったことを 話してほしいのです。 私は それを書きたい

ある独白#4

彼は私にやさしい視線を向けた。 「書くの・・・ですか?」 「書き残したいのです」 すると微笑みながら 幾度かうなずいた。 「わかりました。 ただ わたしには 後わずかしか 時間がありません。 わたしの太陽光エネルギーは 大変長持ちします。 だから、光を遮断し 完全にエネルギーのなくなる今日まで 解体を待ってもらいました。 わたしのエネルギーがなくなったら、 明日この屋敷とともに消えるのが わたしの最後の仕事です」 彼は遠くをみるように目を細めた

ある独白#5

今から約六十年ほど前、葛城博士はこの研究所を兼ねた屋敷の中で 一体のロボットを完成させた。 それこそがRP7型ロボット第一号・リュージだ。 リュージは二十歳前後の青年の姿をした、 完璧な人型ロボットだった。 博士は、彼に葛城竜次という人間の名前を与え、 自分の息子としての最低限の知識を与えると、 ロボットであることを隠して、 大学に入学させた。 リュージが人の中でロボットと気づかれず生活できるか、 という実験だった。 葛城博士には当時大学を卒業したばかり

ある独白#6

一方リュージは、葛城竜次として誰一人ロボットと 気づかれることなく大学を卒業した。 この時になって、葛城博士は初めて世間に新型ロボット RP7型第一号・リュージを発表した。 世界中が博士の発明に驚き、その後続々と女型・子供型など 顔つきもそれぞれ違う人型ロボットが作られてゆくことになる。 耀子は父の成功をニュースで知るが、研究生としての 興味はあっても、それが父のだからといって 何の感情も湧かなかった。 すでに父とは十四年会っていなかったし、 十二歳だった

ある独白#7

リュージは、ロボットとして耀子の部屋の前に立っていた。 管理人に葛城竜次、耀子の弟としての写真入り身分証明書を見せると、 こころよく部屋の鍵を渡してくれた。 リュージが大学を卒業するまで人としての時間を過ごしたが、 葛城博士がRP7型ロボットであることを発表したことによって、 ただの使役ロボットになっていた。 耀子の部屋のドアを開けると、 中のカーテンは閉めきってあった。 リュージはまっすぐにカーテン向かい開け放つと あらゆる窓を開けた。 部屋の中はしばらく帰ってない様子で

ある独白#8

耀子は気味が悪くなって管理人に、 訪ねて来た者がいないか確かめた。 管理人は、『弟の竜次が来ている』と、疑いもなく答えた。 弟の竜次? 耀子には弟はいない。 しかし、竜次という名前にひっかかるものがあった。 耀子は自分の部屋の前に立ち、息を整えて思い切ってドアを開けた。 そこは見違えるように片付き、きれいに掃除され、 さらに夕食が出来上がっていて、おいしそうな匂いがただよっていた。 リュージは、『お帰りなさい』と言って、すぐに耀子の前に現れた。 どこかで見た顔だった。

ある独白#9

「ちょっと!私の持ち帰りの研究資料はどうしたの? 勝手に片づけて、捨てたんじゃないでしょうね」 「書斎にまとめておきました。」 書斎? 耀子は奥の部屋をのぞいた。 そこにはバラバラに あらゆる場所に散乱していたはずものが きれいにまとめられ、分類まで耀子の考えどおり並んでいた。 「先にお風呂はいかがですか?おつかれでしょう?」 リュージに言われるまま、久しぶりに湯につかった。 入るとすぐに洗濯機の回る音が聞こえた。 そういえば、山ほどあった洗濯物が消えてい

ある独白#10

「お嬢様、ベッドメイクもできています」 ベッドルームもきれいに掃除されて、シーツやカバーも取り替えられ ふとんもふかふかで、太陽の匂いがした。 耀子はワインをもう一本空けて、 後片付けをするリュージに近づいていった。 「ねえ、リュージ。あなた、さっきから私のこと 『お嬢様』って呼んでるけど、それってパパに プログラムされたから?」 リュージは耀子の方を向き直った。 「はい、お嬢様がわたしを使用人と認識すれば『お嬢様』と。 弟と認識すれば『姉さん』と呼ぶよう

ある独白#11

その日からリュージは耀子の使用人として 家の中の一切の仕事をすることになった。 リュージは太陽エネルギーで動く上、その太陽光がわずかでも 何日も活動が可能なので、雨や雪の日が続いても 動かなくなることは なかった。 毎日リュージは主夫のように耀子の世話をした。 人間ではないので、忠実で裏切ることもなく 不平をいうこともなく ただ耀子のためだけに働いた。 最初は戸惑いがあった耀子だったが、一度リュージの便利さに 味をしめると手放せなくなった。 それにロボット

ある独白#12

次の日曜日、珍しく耀子は休みがとれた。 「リュージ、今日二人で出かけるわよ。 外では『弟の竜次』として行動してちょうだい。 そうね、お弁当作ってよ。天気がいいから、外で食べるわ」 耀子はリュージをせかせて駐車場に降りた。 ロボットは免許が取れないので、もちろん耀子の運転だ。 「いい?今から弟よ、間違っても『お嬢様』なんて呼ばないでね」 車が発進しマンションの駐車場を出ると、助手席の竜次が話しだした。 「どこ行く気だよ。たまの日曜だってのに、姉さんとデートもない

ある独白#13

男は言葉を切って、竜次の様子をうかがうように見た。 竜次はじっとしていて男を見ていないようだ。 「怒っているのか? 確かに俺はバカだったと思う。 竜次にだまされたと思って、やけになったりした。 だから、今まで連絡とる気持ちになれなかったんだ。 でも、気づいたんだよ。 お前がロボットでも、俺の友達には変わりがないんだって。 すぐ、葛城博士に問い合わせたんだ。 けど・・・おまえは使役ロボットに戻ったから、 行先は教えられないって。 ・・・・探したんだぜ。いっ

ある独白#14

健吾はかがみこんで竜次の肩をつかんだ。 「竜次、おまえは俺の友達だよな。 ロボットだって人間だって、俺の友達には かえわりないよな?」 竜次は答えない。 健吾は立ち上がって握りしめたこぶしを震わせていたが、 無言のまま走り去った。 耀子はため息をつきながら、竜次の横に座った。 「どこか、ヒートしちゃったのかな?」 耀子が竜次を調べようと頭にさわろうとすると 竜次が小さくつぶやいた。 「・・・健吾」 「竜次、覚えてたの?メモリーは消されてなかったのね。