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第4話(3/4) 青鬼の思い出

「話が脱線したね。青鬼時代の話をしようか。私のことだけ話しても仕方がないし、幹部候補生学校のことも勉強されてきているだろうから、ちょっと横道にそれた話をしようかな。

 赤鬼、青鬼は学生隊全体の服務指導、いわゆる生活面に関するしつけの指導をするんだけど候補生は多いときで約400人近くになるときがあるんだ。こちらは2人しかいないから物理的に指導することははっきり言って難しいんです。だから鬼として厳しく指導することによって候補生が自主的に規律を守るようにする心理的抑止力が機能するように努力している。また、私たち鬼からの指導事項を伝達させるために候補生から週番※という当直員を差し出させて彼らを中心に指導をさらに浸透させていくんです。

 青鬼は基本的に甲板週番B(ブラボー)2人を指導して幹部候補生学校が持っている舟艇の維持整備、管理を行うんだけど赤鬼の指導する甲板週番A(アルファ)、この週番は隊舎や教場の環境整備、管理を行う側の指導も副次的に行っていたんだ。

 赤鬼・青鬼2人で情報共有して漏れのないように候補生を指導できるように情報共有協力しないと成り立たなくてね。結構苦労しましたよ。

 そんな環境の中でやっているんでオモシロイ週番学生がいろいろいるんですよ、特に赤鬼は厳しかったですよ。週番日誌の所見をコピペして1週間の当直なのに反省と称して6週間やらされたものもいましたし、とある週番学生は何度指導しても声が小さいって赤鬼に指導されて週番学生の腕章を没収されたものの週番室で執務しているっていう状況になったり・・・・赤鬼の厳しさは私の比ではありませんでしたね。

 私は基本的に理詰めにするタイプの指導をしていたので彼らがちゃんと勉強して受け答えができるようになるまで根気よく付き合う指導をしていたつもりです。だから指導と言ってもレポートを書かせる程度・・・これが嫌な週番学生もいたとは思いますがね。

 そんなある日、巡検※で週番学生の先導で校内を回っていた時です。その週番学生はすでに半分を終えて折り返しに来ていました。その週番学生がとあるトイレで便器の拭き上げよ~し」と大声で確認した旨の報告をしたんです。しかし、私は明らかに便器内が濡れているのを一つ見つけてしまった。幹部候補生学校のルールとして巡検時は便器内に水滴を残してはいけない、乾いている状態にしなければならないと決まっていました。彼の報告は不適切です。

 私は彼に「週番学生待てっ!、便器が濡れているぞ。今の確認、報告は不適切ではないのか」と呼び止めました。彼は走って便器を確認し、私に向かってこう言いました「ご指摘はごもっともです。しかし、当該便器は現在水栓の状況が悪いためと申し送りを受けております。そのため便器内が濡れておりましたことは認識しています。報告せず申し訳ありません」と言いました。私は一瞬考えました。巡検には3つのコースがあり、赤鬼、青鬼はそれぞれ一つずつにしかついていけません。彼の申し出が正しければ赤鬼と情報共有されているはずです。しかし、私はこの不具合については全く知らなかった。

 私は理不尽であると理解しながら「君は理解していながら、誤った報告を上げた。そのことについては問題がある。船の中ではすべての人間がその個所の不具合を理解しているとは限らない。都度、そのたびに確認、報告することが必要だ。本件について君の考えをレポートにまとめて明日の朝の日誌提出時と一緒に持ってくるように」と伝えた。すると彼は顔色変えず「はいっ」と言って巡検の先導を続けました。巡検は19時30分に始まり、細かい指導をしながら21時頃に終わりました。彼は当直士官に「先導終わりますっ!!」と報告し、私たちが姿を消すまで気をつけの状態で待っていました。


第4話(3/4)につづく…

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