第5話 謎の甲板週番(1/6)
五辻の思い出話は止まらない・・・・。
***
次の日の夜の巡検も私は彼のコースについていきました。
巡検ラッパが鳴り終わり、彼は回れ右をして当直士官にいつもどおり申告をして巡検コースの先導を始めました。
当直で巡検コースの後に赤鬼・青鬼が付いてくる可能性は3分の2です。私たちが自分の先導するコースについてくるかどうかが判明するのがこの回れ右をして後ろを向いた瞬間です。
ほどんどの週番学生は我々が付いてくるとわかった瞬間に表情を一瞬変えます。しかし、彼は二日連続で私が付いてくることに顔色一つ変えなかった。
学生を指導する立場の青鬼としては、この日の巡検は残念ながら指摘する事項が出てこなかった。
巡検の先導を終わり、彼は当直室前で当直士官に、
「先導おわります!!」
と申告し、当直室に戻ろうとしていた。
私は彼を呼び止めた。彼は私の前に走ってきた。
「君はなぜ海上自衛官になろうと思ったのか?」
今まで学生にこんな野暮な質問をしたことがなかったんです。自分でもどうかしていた。彼が何を考えているかが全く分からなかったからなんです。
普通の学生であれば精神的プレッシャーを与えられればエラーを起こす。たとえどんなに優秀な学生であってもです。しかし、彼が入校してから彼の存在は書類上の名前でしかなかった。
彼は表情を変えずに少し間を開けて、
「国家防衛の業務に従事したかったからです・・・表向きは。実際は人生のなりゆきです。本当は自衛官になろうとは思っていませんでした。」
と答えた。
私はあっけにとられました。教官や上司に対して、前半の回答だけで何も問題はありません。しかし、彼は最後に本音を言った。本来であれば後半の発言については指導すべきでしたが彼は全く表情を変えない。
私はそれ以上彼になにも言えず、当直勤務に戻るように指示しました。
第5話 謎の甲板週番(2/6)につづく
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