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良い論文の見分け方(情報系)

これまで20年近い研究生活の中で、ほぼ毎日のように論文をチェックしています。学術ジャーナルや国際会議の論文、SNSで話題になっている論文、研究室のゼミで紹介された論文、査読をお願いされた論文・・・などなど論文に触れる機会はさまざまです。

情報の分野に限っても、年間に出版される論文の数は数万におよびます。そこで重要になってくるのは、膨大な論文の中から「質」の良い論文を見分ける力です。

これまでさまざまな論文を読んできた経験から、良い論文の見分けるためのポイントをまずはざっくり紹介します。

査読論文か無査読論文か

論文は大きく分けて査読論文と無査読論文があります。査読論文は、査読者と呼ばれるその分野の専門家によって審査され、審査を通った論文のことを指します。一方、無査読論文は、審査されることなく出版された論文のことを指します。

査読論文や無査読論文かを調べるためには、その論文がどこから出版されているかを調べます。

英語論文の場合は、

  • ジャーナルや国際会議で発表された論文は査読論文

  • それ以外は無査読論文です。

一方、日本語の場合は、

  • 学会が運営する論文誌に掲載された論文は査読論文

  • それ以外は無査読論文です。

それぞれの論文を例と共にみていきましょう。

査読論文 : 国際会議論文の例

たとえば、ALIFEの仮想生物に関するKarl Simsが書いた「Evolving virtual creatures」という論文は、どこから出版されたものかをみてみましょう。

「Evolving Virtual Creatures」の論文情報

論文情報で重要な情報は次の5つです。

  •  論文タイトル:Evolving Virtual Creatures

  • 論文著者:Karl Sims

  • 掲載元:SIGGRAPH '94: Proceedings of the 21st annual conference on Computer graphics and interactive techniques

  • 掲載年:1994

  • ページ数:Pages 15-22

国際会議で発表された論文か否かは、論文情報から瞬時に分かります。「Proceedings of the 21st annual conference on Computer graphics and interactive techniques」の「Proceedings」というキーワードです。Proceedingsは「会議録」という意味です。国際会議で発表された論文をまとめた冊子を会議録と呼び、論文情報を記載するときには必ず「Proceedings of 国際会議名」と書かれるため、国際会議で発表された論文であるか否かを瞬時に判断することができます。

Googleで「SIGGRAPH」と検索してみると、実際、最初の検索結果やWikipediaの情報から、SIGGRAPHとはACM(Association for Computing Machinery)というアメリカコンピュータ学会が主催するCGを扱う国際会議であることが分かります。

「SIGGRAPH '94」のGoogle検索結果

SIGGRAPHは、いわゆるトップカンファレンスと呼ばれる有名な国際学会です。トップカンファレンスに掲載される論文は、その質も担保されているので、ぜひチェックしましょう。

査読論文 : 国際ジャーナル論文の例

では、次に、国際会議ではなく、国際ジャーナルに掲載された論文の例をみてみましょう。

ジャーナル論文の例

論文に関する5つの重要な情報を整理してみます。

  • 論文タイトル:A Hypercube-Based Encoding for Evolving Large-Scale Neural Networks

  • 論文著者:Kenneth O. Stanley, David B. D'Ambrosio, Jason Gauci

  • 掲載元:Artificial Life 15(2)

  • 掲載年:2009

  • ページ数:185-212

ここで、掲載元の書かれ方から、ジャーナルに掲載された論文であることが分かります。それは、「Artificial Life 15(2)」の15(2)という部分です。15はジャーナルの巻(volume)、2はジャーナルの号(issue)を表しています。

Google検索で「Artificial Life Journal」と調べてみると、確かにジャーナルのページが見つかります。

「Artificial Life Journal」のGoogle検索結果

ALIFE分野でメジャーな「Artificial Life」というジャーナルです。例に用いた論文は、現在Open AIの研究者であるケン・スタンリーらによって提案されたHyperNEATというアルゴリズムについて書かれた、ALIFEで非常に有名な論文です。

国際会議やジャーナルに掲載された論文は、査読論文であることがほとんどです。が、国際会議やジャーナルのレベルはピンからキリまであり、中にはいわゆる「ハゲタカ国際会議」や「ハゲタカジャーナル」といって、営利目的のために多くの論文を集め、まともに査読されずに出版されているものも混ざっているので注意が必要です。国際会議やジャーナルのレベルを知るためには、h-indexやインパクトファクター(IF)が手がかりになります。これらについてはまた別の機会に解説します。

無査読論文:arXiv論文の例

では、英語論文の場合で無査読論文にはどのようなものがあるのでしょうか。その代表例は、最近は特に増えているarXiv(アーカイブ)論文です。

一般的に、論文を執筆し国際会議やジャーナルに投稿してから出版されるまでには、国際会議で数ヶ月から半年、ジャーナルに至っては1年以上かかることもザラにあります。そこで、論文を投稿すると同時に、論文を公開するためのサイトとして1991年に立ち上げられたのがarXivです。

最近では、ジャーナルに投稿することなくアーカイブにのみアップするという論文も増えてきています。ですが、査読される前の論文のため、その分野に詳しくないと、質の良い論文なのかどうかを判断することが難しいです。

また、多くの論文はarXivにアップされると同時期に、国際会議やジャーナルに投稿され、その中で質の高い論文の多くはその後、しかるべきところに掲載されていることが多いです。ですので、その分野に詳しくなってきてから、アーカイブ論文をチェックすることをオススメします。

興味のある論文にたくさん触れると、必然的に分野に詳しくなってきます。そうすると、誰が書いた論文、あるいはどの研究室から出された論文かといった情報や、論文の要旨(abstract)やイントロダクションの内容から、質の良い論文かどうかの判断もできるようになってきます。なので、それまではarXiv論文はスルーしましょう。

日本語論文の査読・無査読論文

日本語論文で書かれた論文も、学会の論文誌、研究会会議録、全国大会要項集などさまざまな形で発表されています。

日本語論文の場合、ジャーナルに当たるのが、学会が運営する論文誌です。たとえば、人工知能学会は「人工知能学会論文誌」を運営しています。

人工知能学会のサイトトップページ

人工知能学会のトップページにある「出版物」をみると、学会誌と論文誌という項目がありますね。このように、ほとんどの学会が論文誌を運営していて、その分野の専門家によって査読された日本語の論文が出版されています(もちろん英語での投稿や出版も可能です)。

日本語の論文の場合、こうした論文誌に掲載されている論文のみが査読論文と考えてしまっていいかと思います。

論文誌以外の論文は、無査読論文であることがほとんどのため、その質は本当にピンからキリまであります。もちろん、無査読論文でも素晴らしい内容のものもありますが、分野に詳しくないと、その判断をするのは簡単ではありません。ですので、ある程度、質が担保されている読むべき論文か否かをすばやく見極めたい場合は、論文誌に掲載された論文であるかどうかをチェックすることをオススメします。

ちなみに、学会誌というのは、学会が定期的に発行している会誌です。人工知能学会では、毎月学会誌を発行しています。学会誌にも技術的な内容が書かれた論文が掲載されます。また、論文の特集号も学会誌に掲載されることが多いです。学会誌に掲載された論文や解説記事は、学会の編集員や特集号を企画者によるチェックが入っているので、比較的、質が担保されているものが多いです。気になる記事や論文が学会誌に掲載されている場合は、ぜひチェックしましょう。

CiNii Articles:日本語論文に特化した検索サイト

それでは、実際に日本語論文を検索し、どこで掲載された論文かをみていきましょう。

日本語論文のみを検索するときに便利なのが、CiNii Articlesです。日本で出版された論文が検索できるサイトです。CiNii Articlesで「人工生命」と検索した結果をみてみましょう。

「人工生命」のCiNii Articles検索結果

最初の検索結果は、「人工知能」37巻1号で掲載された「人工生命研究の新たな展開」という特集号です。37巻1号とあるので、ジャーナル論文かと思いますが、これは学会誌です。論文誌の場合は、人工知能学会論文誌と名前に論文誌を含むことがほとんどです。検索結果だけの情報から判断がつかないときは、タイトルをクリックし詳細を確認します。

論文の詳細情報

すると、論文情報のソースサイトに飛び、より詳しい情報が分かります。「解説誌・一般情報誌」という記載がある通り、論文誌でないことが分かります。

次の2つ目の検索結果も同様に「人工知能」という学会誌です。

3つ目の検索結果は、「電気学会論文誌C」に掲載された論文です。出版元に「論文誌」と入っているので、電気学会が運営する論文誌に掲載された査読論文あることが分かります。

4つ目の検索結果は、「第83回全国大会講演論文集」とあるので、無査読論文です。多くの学会は「全国大会」という名前で研究成果を発表する大会を開催しています。これも、情報処理学会が開催した全国大会で発表された論文です。

もし、論文のタイトルが気になって読んでみたい場合は、同じようなタイトルで、論文誌に投稿され採録された論文がないかどうかをまずチェックすることをオススメします。全国大会で発表した論文をベースに、ブラッシュアップして論文誌に投稿することはよくあることです。もし論文誌に掲載された論文があれば、推敲が重ねられより質が高くなっていることが多いです。

5つ目の検索結果は、「白百合女子大学人間総合学部児童文化学科研究室」が発行している「開花宣言」という雑誌のようです。このケースのように、検索キーワードによっては、異なる分野の雑誌や国際会議に掲載された論文が検索結果に引っかかることがあります。こうした場合も、まずは検索したい分野の論文に限ったものをチェックするのがいいでしょう。

さて、ここまで、論文の質を素早く見分ける方について、査読論文か無査読論文かという視点からみることについて解説してきました。分野に詳しくなってくると、査読論文の中でも、どこの国際会議で発表されたものか、あるいは、どこのジャーナルに掲載されたものかをみるだけで、更にその論文の質の検討をつけることができます。さらに、分野に精通してくると、どこに出版されたものかに関わらず、誰によって書かれたものなのかという論文著者の名前だけから、さらには、そうした属性情報に一切頼らずに、論文の内容そのものから、論文の質を推測できるようになってきます。

論文の内容だけから論文の質を判断できるようになれば、かなりその分野に精通してきた証拠です。そこに至るまでには、なるべく良質の論文をたくさん読むことです。そして、論文の質を知るさらなる手がかりになるのが、国際会議やジャーナルのレベル、そして、論文著者の分野への貢献度を示す値などです。次回は、それについて解説したいと思います。

ここまで長文を読んでいただきありがとうございました!
みなさまの論文ライフが少しでも快適になることを願って。

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