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チームが成功するためには「無意識のバイアス」を取り除くことが大切

個体の進化から協調的な集団の進化へ。ALIFE研究を振り返ってみると、個体の形成や自己複製といった、生命の基本機能を人工的に作り出そうとする「個体」に焦点を当てた研究から個体同士の相互作用が集団として作り出す創発現象へ、そして振る舞いが異なる個体の集団がもたらす大きな力を実証する研究へと変化してきました。

個人からチームへ

私たちが生きる社会でも問題が複雑になるにつれて、個人ではなくチームによって解決されることが増えてきています。
たとえば、次の図は1980年から2015年頃までの論文の平均共著者数の変化です。年々増えていっている様子がうかがえます。特に、物理系の分野では共著者数の増加が著しく数十名に達しています。

https://www.natureindex.com/news-blog/paper-authorship-goes-hyperより転用

最近のAIプロジェクトもインパクトが高い仕事ほど、チームで行われていることが多いように感じています。たとえば、文章を入れると絵を描いてくれるDALLE-2Imagenといった技術が、OpenAIやGoogleから相次いで発表され話題になっていますが、どちらのプロジェクトも数十名のチームによって進められているものです。

集団がその力を発揮するために重要なこと

さて、集団がその力を発揮するために重要なことは何でしょうか?ALIFE研究から分かった重要な要素が「多様性」です。当たり前かもしれないですが、同じ振る舞いをする、あるいは同じ視点を持った個体ばかりから構成される集団は進化しません。どんどんと先細りになり、次第に淘汰されていきます。多様な視点を持つ個々が集団となることで、はじめてその力が発揮されるのです。

「多様性の重要さ」は、巷でもよく聞く言葉です。SDGsを実現する上でも重要なキーワードとして、特集が組まれるなど注目されています。でもよくよく考えてみると、人間も含め、自然界の生物には多様性に溢れています。ひとりひとりが持っている遺伝子は(一卵性の多胎児を除いて)それぞれ異なりますし、環世界という観点からはおそらくみている世界も同じではありません。ジーンクエスト代表の高橋祥子さんの言葉を借りれば「多様性は認めるものじゃなくて、元々そこにあるもの」です。

無意識のバイアスを取り除く

生物が生来的に持つ「多様性」を最大限に活かし、集団としての力を発揮するためにはどうしたらいいのか。
ALIFE研究から見えてきた多様性を取り込むためのひとつのポイントは「人間の持つ無意識のバイアスを取り除く」ことです。

人間は「認知バイアス」と呼ばれる、知らず知らずのうちに偏った思考や判断をしてしまいます。認知バイアスは、人間が作成したデータから学習したAIに色濃くみられることがあります。たとえば、2018年にAmazonが人工知能を活用した人材システムを開発したことがありましたが、「女性を差別する」というデータに潜むバイアスを学習してしまうという欠陥が判明し、運用を取りやめるという事態になりました。

ALIFE研究でよく用いる「進化アルゴリズム」が提案してくれるさまざまな解をみていると、わたしたちは知らず知らずのうちにバイアスを持ったモノの見方をしているな、と思い知らされることがあります。たとえば、以下は、落とし穴がある道を越えるように「ロボット」の動きをつくりだすアルゴリズムを走らせていたときに、進化アルゴリズムが見つけ出した結果です。

尻尾を使いながら進んでいき、落とし穴に落ちてしまうかと思いきや、そこでうまくジャンプする動きを作り出しています。猫のような形をしたロボットなので「『足』を使って動くべきだ」という無意識のバイアスを持ってついつい動きを設計しそうになりますが、必ずしもその方法だけではないことをこうした実験は示してくれると共に、「無意識のバイアス」にも気付かされます。

組織における多様性の作り方

集団の多様性について考えるとき、こうした「無意識のバイアス」を取り除くことは必須です。前述のAmazonが開発したAI技術は人間の小さなバイアスが積み重なった結果が表れたものです。日本では履歴書に性別を書いたり、写真を添付することがまだまだ多いですが、世界では性別などの情報を履歴書に記載する必要がない選考方法をとっている組織が増えていると聞きます。これは、組織やプロジェクトにとって重要な人材を無意識のバイアスで見逃さないための手段として、とても有効だと言えます。

無意識のバイアスを取り除くことで、想像もしなかったロボットの動きを見ることが出来ました。多様な視点を持つメンバーで組織をつくることで、よりチームとして力を発揮することにつながるのです。


今回は、チームの成功を考えるうえで、多様性が重要なポイントであること、そして、この多様性を人工的(故意的)に再現するには、「無意識のバイアス」を取り除くことが重要でがあることをお伝えしてきました。ALIFE研究から見えてきた多様性を取り込むためのポイントはまだまだあります。それらについても、このnoteでまた書いていきたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。



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