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生命科学とALIFEに学ぶ変化の激しい社会を生き延びるための2箇条

高橋祥子さん、安川新一郎さんと『ALIFE | 人工生命 ―より生命的なAI 』の刊行記念トークイベントで鼎談させていただきました。

「生命科学」と「ALIFE」。生身の生命と人工の生命という違いはあるけれど、どちらも「生命」を扱う科学です。これらの研究を通して、あらゆる生命体が生き延びるために獲得してきた共通の強み、それは「変化する力」と「多様性」である、ということに気付かされます。

生命の基本方針を実装する「遺伝的アルゴリズム」

生命とは?この難しい問いに対し、生命科学者でジーンクエストの代表取締役社長でもある高橋さんは、次のように説明します。

「個体として生き延びて、種として繁栄していくという基本方針に則って全ての行動が規定されているのが生物です」(高橋)

この生命の基本方針をアルゴリズムとして実装したのが、ALIFEの分野で有名な「遺伝的アルゴリズム」です。遺伝的アルゴリズムとは、与えられたタスクの解を探すための、生命の進化を模倣して作られたコンピュータプログラムです。

たとえば「迷路を解くロボットをつくる」というタスクが与えられたとします。すると、遺伝的アルゴリズムは、ランダムな動き方をするロボットから始め、進化を経て(ロボットに突然変異を加えたり、ロボット同士を交配したりする)、より迷路の出口に近づいたロボットの遺伝子を次の世代に継承していくことで、ロボットの動きを探索していきます。

より上手くタスクを解くことができる遺伝子を次の世代に継承することで、個体として生き延びる確率を高めながら、種としても繁栄していくという生命の基本方針が実装されているのです。

遺伝的アルゴリズムは、初期状態に依存して、解に辿り着けたり、辿り着けなかったりすることがあります。そして、研究の結果、それを分けているのが、できるだけ多様な(遺伝子の異なる)個体を作り出せるか否かであるということが分かってきました。多様性が高いほど、さまざまな方法で多方面から探索することができるので、より解に辿り着く可能性が高まるのです。

生命における「多様性」は生き延びるための前提条件

生身の生命においても、「多様性が生命にとっての一番の武器」と高橋さんは言います。

生命は環境の変化に適応して生き延びてきました。「遺伝子が変わっていくということが進化」とすると、進化していくためには多様性が不可欠になります。もし、種を構成する個体すべてが同じであったら、環境が変化したときに全滅してしまう可能性があるからです。なので、多様性は、外部の環境の変化に合わせて変わり、種が生き延びていくための前提条件となるのです。

「受け入れる受け入れないという問題ではなく、そもそも環境の変化に合わせて生き残っていくための前提として作られてきたものが多様性。多様性はつくるものではなく、進化するための前提としてそこにあるもの」と高橋さんは指摘します。

ALIFEの研究も「多様性」の重要性を認識し、多様性をつくりだすためのアルゴリズムを多く開発してきました。その結果、すべてが最適な解ではないかもしれないけれど、多様な解の中から、思わぬ解が踏み台となり、結果として最適解に近づくことができるのです。それは、「思っていたような道ではないかもしれないけれど、結果的にはよかったと思える道」が見つかることと似ています。

自分自身も変化することで生命は生き延びてきた

生命がこれまで生き延びてきている強さのもうひとつの源は、自分自身が変化できることです。環境の変化に合わせて、自分自身の行動を変化させることで適応してきたのです。ALIFEの研究においても、常に行動を変化し続けることの重要さが示唆されるアルゴリズムが開発されています。「新規性探索アルゴリズム」と呼ばれる、ひたすら新しい行動のみを行うアルゴリズムです。

新規性探索アルゴリズムは、目的はもたず新しいことをする、ただそれだけでうまくいくことがあることを示しています。自分自身が代わり続けること、それは、ゴールに辿り着くための明確な目的がわからない場合の強力な手段になりうるということです。

コンサルタント、投資家、財団理事など多方面で活躍する安川さんは、新規性探索を、仕事を受けるかどうかの指針にされていると言います。「新しい仕事をうけるときは、これまでやったことのない役割とか聞いたこともない仕事だったら、引き受けるようにしています」(安川)

「自分自身が変わらない強さを持つのではなく、変わり続けるという選択をすることが強さをつくる」と、高橋さんが言うように、自分自身が変わる、これまでの行動を変えることが、結果を変え、新しいよりよいところに導いてくれる、ということかもしれません。

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以上、1時間半に渡る鼎談の中でいろいろと議論させていただきましたが、私の中で印象に残った「変化する力」と「多様性」という2つのキーワードを中心にまとめてみました。

生命科学、ALIFEに興味をもってくださった方は、ぜひ次の2つの本もチェックしてみてください。これまでとは違う視野で世界を見渡し、新しい行動を起こすきっかけとなるかもしれません。

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