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本棚の航路から ~物語の海へと旅立とう~

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あの頃読んだ忘れられない本や、人生の曲がり角で出会った本、そしてただただ夢中になって読んだ本について書いています。 【物語が、あの頃の私を生かしてくれた】
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記事一覧

『ガラスの海を渡る舟』寺地はるな~その船を降りて漕ぎ出そう。わたしだけの、小さな舟で。

「俺に言わせれば、道も羽衣子も恵湖も俺も、みんなふつうや」 「ひとりひとり違うという状態こそが『ふつう』なんや。『みんな同じ』のほうが不自然なんや」                      …… P41. 42. 道の祖父 「相手の気持ちになって考えましょう」そんな言葉を、小学生の頃から数えて何度聞かされたことだろう。 けれど、相手の気持ちをほんとうに分かる事なんてできるのだろうか。私は、あの人ではないのに。 小さい頃から何度も噛みしめたその思いを、改めて思い出した一

物語はきっと、細胞の一つ一つに染みこんでいる。

忘れられない本の紹介をしようと思い立って二つほど記事を書いてみたはいいが、早々に心が折れかけている。 というのも、思い出す本のほとんどが記憶にあるものと違ってしまっているのだ。 再版されてイラストが変わり、厚みが変わり、訳者が変わっている。そもそも私が入り浸っていたころと、図書館の建物が違う。本棚の並びが違う。 思い出の本は、 「あの通路のあの棚のあの位置」にあって、「あの厚さや重さで、こんな表紙の手触り」で、「あのあたりにこんな挿絵」があったのだ。 読んでいる時に庭で