VRC内でのお砂糖と不倫

既婚者とお砂糖関係になった場合、何らかの請求をされることがあるのでしょうか。
お砂糖と不倫の問題について検討してみました。

お砂糖とは

お砂糖とは、VRChat内での恋人関係のことをいいます。
砂糖のように甘い関係のことです。

お砂糖の意義については、関係をVRC内に限るか否か(リアルを含めるか)、恋人のみならず親友関係を入れるか等、話者によって異なる場合があるようです。

なお、「ソーシャルVR国勢調査2021」での調査では、31%の人がお砂糖経験があるそうです。

不倫とは

不倫とは、不貞行為(民法770条1項1号)のことをいい、「配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいうのであつて、この場合、相手方の自由な意思にもとづくものであるか否かは問わない」とされています(最高裁昭和48年11月15日判決)。

不貞行為があれば、
①不貞行為を理由とした離婚の訴え(民法770条1項1号)(乙⇒甲)
②不貞行為を行った配偶者及びその相手方に対して、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、710条)(乙⇒甲、丙)
が考えられます。

①は夫婦間(甲乙)の問題ですが、②は夫婦間(甲乙)のみならず不貞相手(丙)も関わる問題です。

お砂糖が不貞行為にあたるか

では、既婚者である甲と丙とのお砂糖関係が不貞行為に該当するのでしょうか。

甲と丙がVRChat内でお砂糖関係になり、その後、リアルオフ会で会い、性的関係を結んだ場合は、「不貞行為」に該当します(ただし、甲丙が同性である場合は、解釈が分かれています。不法行為に基づく損害賠償請求の関係ではありますが、下記裁判例では、同性間で性的関係を結んだことが不貞行為に該当すると判断しました。)。

(1) 不貞行為とは,端的には配偶者以外の者と性的関係を結ぶことであるが,これに限らず,婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する蓋然性のある行為と解するのが相当であり,必ずしも,性行為(陰茎の挿入行為)の存在が不可欠であるとは解されず,夫婦共同生活を破壊し得るような性行為類似行為が存在すれば,これに該当するものと解するのが相当である。
 そして,同性同士の間で性行為あるいはその類似行為が行われた結果として,既存の夫婦共同生活が離婚の危機にさらされたり,離婚に至らないまでも形骸化するなど,婚姻共同生活の平穏が害される事態もまた想定されるところである。
  (2) 本件各行為は,前記2のとおり,被告がAの意思に反して行ったものとまでは認められないが,いずれも前記1(2)の本件行為1と同様の態様で行われた(被告本人3~7,16頁)とのことであるから,原告とAの婚姻共同生活の平穏を害しかねない性行為類似行為であるといえ,不貞行為に該当する。

東京地裁令和3年2月16日判決

しかし、VRChat内(又はインターネット上に限った)のみのお砂糖関係である場合は、甲丙が性的関係を結ぶことがないため、「不貞行為」に該当することはありません。

したがって、VRChat内のみのお砂糖関係であれば、不貞行為に該当しません。
よって、お砂糖関係がVRChat内で完結していれば、乙は甲に対する不貞行為を理由とした離婚の訴えは認められません。

その他婚姻を継続し難い重大な理由

不貞行為に該当しないとしても、「その他婚姻を継続し難い重大な理由」(民法770条1項5号)に該当するとして、乙の甲に対する離婚の訴えが認められる可能性があります。

「その他婚姻を継続し難い重大な理由」は、夫婦生活の継続が困難であり、回復を期待できない状態(婚姻関係が破綻している状態)になっている場合のことで、具体的には、長期間の別居、虐待、服役、過度の宗教活動等が挙げられています。

VRChat内のみのお砂糖関係が、「その他婚姻を継続し難い重大な理由」に該当するかについては、具体的な事情にもよりますが、インターネット上での関係に過ぎない為、「その他婚姻を継続し難い重大な理由」に該当する事例は限定的だと思われます。

既婚者とのお砂糖関係により不法行為が成立するか

不貞行為に該当しなくとも、不法行為が成立する可能性があります。

「不貞行為が不法行為に該当するのは婚姻関係の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するからであることからすると,原告主張の具体的事実について,その行為の態様,内容,経緯等に照らし,不貞行為に準ずるものとして,それ自体,社会的に許容される範囲を逸脱し,上記権利又は利益を侵害するか否かという観点から,不法行為の成否を判断するのが相当である。」

東京地裁平成29年9月26日判決(以下「平成29年裁判例」といいます。)

なお、不法行為が成立するには、故意または過失が必要なので、非既婚者側の場合、お砂糖相手が既婚者であることについて故意または過失を要します。

お砂糖関係やインターネット上の恋愛関係について直接判断した裁判例は見当たりませんでしたが、メール等のやりとり自体が不法行為にあたるかについて判断した裁判例が数件あります。

被告が原告の妻であるAに対して「愛してる」,「大好き」等のメールを送ったことについて、「私的なメールのやり取りは,たとえ配偶者であっても,発受信者以外の者の目に触れることを通常想定しないものであり,配偶者との間で性的な内容を含む親密なメールのやり取りをしていたことそれ自体を理由とする相手方に対する損害賠償請求は,配偶者や相手方のプライバシーを暴くものであるというべきである。また,被告がAに送信したメールの内容(甲3)に照らしても,被告が,原告とAとの婚姻生活を破綻に導くことを殊更意図していたとはいえない。」として、不法行為の成立を否定しました。

東京地裁平成25年3月15日判決(以下「平成25年裁判例」といいます。)

被告Y1と原告の妻とのLINE上でのやり取りについて、「やり取り①は,その内容からして,被告Y1とAが,従前,性的関係を有していたことを前提として,性的行為の内容を露骨に記載して性交渉を求めるものであり,やり取り②は,前日のやり取り①も踏まえると,被告Y1が,Aに対し,性交渉を求めるものであると認められる。
 そして,上記のように,従前,性的関係を有していたことを前提として,性的行為の内容を露骨に記載して性交渉を求めることは,不貞行為には該当しないものの,その記載内容にも照らすと,これに準ずるものとして,社会的に許容される範囲を逸脱するものといえ,婚姻関係の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するものであるというべきであるから,被告Y1の上記行為は,原告に対する不法行為を構成すると認められる。」として、不法行為の成立を認めました(慰謝料30万円)。

東京地裁平成29年9月26日判決(以下「平成29年裁判例」といいます。)

「被告が,Aと会いたい,一緒に居たい,一緒に居てくれて感謝する,Aのことを考えている,好きだなどという気持ちを伝えるかのようなメール」等を送ったことについて、「このようなメールは,性交渉の存在自体を直接推認するものではないものの,被告がAに好意を抱いており,原告が知らないまま被告とAが会っていることを示唆するばかりか,被告とAが身体的な接触を持っているような印象を与えるものであり,これを原告が読んだ場合,原告らの婚姻生活の平穏を害するようなものというべきである。」として、不法行為の成立を認めました(慰謝料30万円)。

東京地裁平成24年11月28日判決(以下「平成24年裁判例」といいます。)

平成25年裁判例は「私的なメールのやり取りは,たとえ配偶者であっても,発受信者以外の者の目に触れることを通常想定しない」等を理由に、メールのやり取りのみでは不法行為が成立しないとしています。

しかし、婚姻関係にある夫婦であれば何かの折にメール等のやり取りを見ることが想定されることや、配偶者以外の異性との間の性的な内容を含む親密なメールのやり取りの存在そのものが夫婦の婚姻関係を害し得るものであることから、平成24年裁判例及び平成29年裁判例のように考えるべきだと思います。

どのようなやり取りがあれば不法行為が成立するのか

婚姻関係の維持・平穏を害するものかという観点から、個別具体的に判断することになります。
JUST(VRChat内で性的関係を結ぶこと)をしていたり、リアルで接触する話し等が、婚姻関係の維持・平穏を害する方向の事情として考えられます。
しかし、平成24年裁判例及び平成29年裁判例は、いずれもリアルでの接触もあった事案である一方で、お砂糖がVRChat内のみでの関係であるとすると、不法行為が認められるハードルは高いものと考えます。
したがって、不法行為が認められる可能性はあるものの、認められる事例は限定的だと思います。

なお、平成25年裁判例及び平成29年裁判例では、具体的なメールのやり取り等を確認することはできませんでしたが、平成24年裁判例で記されていたメールの内容は後記のとおりです。

ア 被告が作成してAに宛てた本件メールには,次のような表現がある。
 (ア) 「大丈夫・・/やだナ/恥ずかしい/おやすみA チュ」(甲4の1)。
 (イ) 「明日仕事納めでしょ?それに夜家に居ないとまた疑われるよ」(甲4の2)
 (ウ) 「そんなんでも会いたいんだけどね」(甲4の3)
 (エ) 「coffeeご馳走さま/もう少しだけギュウしてほしかったけれど,眠さには勝てないから」(甲4の4)
 (オ) 「今週はA忙しい?いつ一緒に居られる?」(甲4の5)
 (カ) 「HだねA/バイアグラはいらないよ,私Hじゃないもん」「お泊まりするの?お泊まりグッズ持って?出来たらスゴイね。そうしたいけど,なんだか色々心配だな。大人だからな。」(甲4の6)
 (キ) 「違う(-_-)HはA。だよね/そっか,会社お休みしてね/ん?来週,出来るのかな?私は・・・うん,どこか休める」(甲4の7)
 (ク) 「大好きな誕生日に一緒に居てくれてMOREありがとう」(甲4の8)
 (ケ) 「今電卓を叩きながらAのこと考えてる」(甲4の9)
 (コ) 「やっぱりAにそばに居てほしい」(甲4の10)
 (サ) 「ボクが[パパはどうしてここ歩くんだろ?・・・]て不思議そうな顔をしてたよ」(甲4の11)
 (シ) 「チュ」(甲4の12)
 (ス) 「熱が38℃になってた/チュってしたから,よく消毒してね/Aに会えなくなった・・・逢いたい」(甲4の13)
 (セ) 「逢いたい」(甲4の14)
 (ソ) 「血まみれになるからギュウはできないよ/終わったらして」(甲4の15)
 (タ) 「だって,どうしても気になってしまうんだもの・・・一番辛い日だし,スゴイの見られたくないし/わかって,お願い」(甲4の16)
 (チ) 「ちゅ」(甲4の17)
 (ツ) 「大好きだよ」(甲4の18)
 (テ) 「Aとよからぬ計画話しした日の夜から/ダメ!って体が答えたらしい」(甲7の1)
 また,Aが被告に宛てた本件メールには,次のような表現がある。
 (ト) 「夜逢いたいのに・・・お見舞いに来てくれる?」(甲5の1)
 (ナ) 「お見舞いは?/そばにいてくれればいい」(甲5の2)
 (ニ) 「生理か。。。ちょっと早かったのかな。。。」(甲7の3)
 (ヌ) 「え~今日こそいちゃいちゃしようと朝から楽しみにしていたのに。。。」(甲7の4)
 (ネ) 「今日はYちゃんの身体から逢えて嬉しいっていっぱい出てて嬉しかったよ。/イチャイチャしたいとも出てたけど」(甲7の5)
 (ノ) 「逢いたいよぅ。この間みたいにいっぱいぶちゅぶちゅしてのんべんだらりと過ごしたいよぅ。」(甲7の6)
 (ハ) 「でもYちゃんは俺のことすごく好きだよ。」(甲7の7)
 (ヒ) 「帰るね。/疲れた。/おっぱい。」(甲7の8)
 (フ) 「金曜日いちゃいちゃできる?」(甲7の9)
 (ヘ) 「俺の彼女はYちゃんでYちゃんの彼氏は俺なんだから」(甲7の10)

東京地裁平成24年11月28日判決

不法行為に基づく損害賠償請求の問題点

・不法行為が成立する事例が限定的であると思われること
お砂糖関係があったとしても不法行為が成立するか否かは、具体的なやり取りの内容等によるものであり、必ずしも不法行為が成立するわけではありません。

・証拠の収集が困難であること
ボイスチャットでのやり取りであることから、メール等のように記録が残らないため、録音等によらなければ証拠を収集することが困難です。

・慰謝料額が低額であると思われること
メール等のみで損害賠償請求が認められた平成24年裁判例及び平成29年裁判例では、いずれも慰謝料は30万円程度と低額なものでした。
VRChat内のお砂糖関係のみでこれを上回る可能性は低いと思われます。

・お砂糖相手丙の特定に手間がかかること
「ソーシャルVR国勢調査2021」での調査では、日本人の仮名率が98%です。実際に、お砂糖相手の丙に損害賠償請求しようにも、相手がどこの誰であるかを特定することが必要になります。
お砂糖相手の丙が任意に応じる等しない限り、手間がかかります。

したがって、お砂糖関係によって、不法行為が成立する可能性はあるものの、配偶者のお砂糖相手が請求に任意に応じない場合には、費用対効果の問題から請求することが難しいという問題があります。

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