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#77 おじいちゃんになりたい夫とおばあちゃんになりたい私


朝の8時台、表で小学生の可愛い声がする。
私は条件反射のように立ち上がって寝室の出窓から彼らの通り過ぎるのを眺める。
きっと目尻が下がって、孫を見送るお婆ちゃんに見えてるのだろうな・・・

年の頃は5歳と8歳くらいだろうか・・・このふたりがお隣にやって来たおかげで、しばらく忘れていた甘酸っぱい気持ちが呼び起こされる。


私の家はすぐ前がプライベートレーンになっていて、5軒の家庭からの人の出入りしかない。しかも我が家の前を通るのは奥に住んでいる、2軒に分かれて3世代が揃うお隣さんだけだ。

この子どもたちは、お隣の30代の息子さんのところにお母さんと共にやってきた。

私たちの近所付き合いは、付かず離れずの居心地のよい関係である。外で会えば挨拶し合うし、おしゃべりもする。

「この度この子たちがやってきました」という報告がなかったけれど、これは私たちの推測だけれど、お隣に新しい家族の形が生まれようとしている。
いや、生まれたのだ。 4世代となって。


ずーっと鉛筆で引いた線


『お母さん (お父さん) による絵本の読み聞かせ』というものがまるで愛情のバロメーターのように奨励されたなあ‥‥と思い出す。今だってきっとそうだろう。

だが私は本が好きで音読みも好きなのに、自分の子どもたちに読み聞かせをしなかった。

なぜあんなチャンスを活かさなかったのかと思うのだが、我が家では初めからずっと、本を読み聞かせるのは夫だった。

まるで言い訳のようになるが、私は夫が毎晩子どもたちの前で絵本を読んで楽しむのをちょっと離れて見るのが好きだった。子どもたちもちゃんと聴いていたが、一番は自分のために読んでいたのじゃないかと思う。

そのくらい本を大事そうに嬉しそうに読んでいた

イギリス人の夫が読む本なのだからすべて英語だ。欲を言い出せば、なぜ私も一緒に聴いておかなかったのだろう‥‥とか、なぜ私は日本語の本を読んでやらなかったのだろう‥‥とかいくらでもある。

だけど、本を読むことが、『情操教育のため』とか『賢い子どもに育てたい』という親の欲と紐づいていたなら、ちょっと子どもはかわいそうだ。それに、本を読んでもらってもそんなに楽しくないかもしれない‥‥

もし私がイギリスに居てまで日本の絵本を読み聞かせようとしたら、そんなヨコシマな思いは見抜かれていたかもしれない。

夫の最初の職業はプライマリースクール (小学校)、しかも低学年の教師だったせいもあってか、抑揚の付け方や発声の明確さは私が惚れたところでもある。

18年前に女の子と男の子に恵まれた家庭のままで十分だと言った夫に、どうしてももうひとり赤ちゃんが欲しいと言ったのは私。家族会議の末、3番目を授かったという経緯がある。


その3番目の息子は生後半年くらいは本当に笑わない子だった。そして私が部屋からいなくなると必ず泣いた。

大きくなってから、本人はよく冗談で「ダディは僕を要らなかったんだよ。そりゃあ笑ってやるもんかと思うよ」と言ったものだ。こんな冗談が言えるのも、夫と次男の絆の深さがあってのことだ。

あの時に赤ちゃんが欲しい主張を曲げなかった自分を褒めたい。

そんな末っ子も遠く日本に行ってしまい、北海道で農業を学ばせていただいている。

つい先日、彼が2年間頑張った試験の結果が発表されたが、それは驚くほど輝かしいものだった。ロックダウンが厳しかったイギリスで学校に行けなかった時期は長い。友達との若者らしい楽しみもまるまる奪われた世代。親の目には分からなかったけれど、あの子はあの子なりに黙々と頑張ったんだ、と胸が熱くなった。

イギリスの大学は、願書を受けた大学がこの試験の結果をもとに、入学してほしいか要らないかを決める。この試験結果なら何年後に日本から帰ってきても、どの大学へも間違いなく入れるよと長男が教えてくれた。

そしてコロナ渦でやむなく同居していた長男にも、(本人が) 初めてキャリアと呼べるマネージメント職が決まった。もうすぐ彼も遠くの都市にいく。

心配はしていなかったけれど、でも頼られていた間はちょっと嬉しくもあった、そんな息子たちもどんどん新しい世界に挑戦していく。

夫と私ときたらどうだろう。

社会的に成功した人たちと比べたら、まことに冴えない私たちだ。

だけど今でも夫の絵本の読み聞かせは天下一品だと思う。


前回、前々回とイギリスのリサイクル事情に少し触れたが、どんな商店街にもふたつみっつは必ずあるチャリティーショップでの出会いだった。

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こんなにしっかり作られた革製のベビー靴。ペンを置いたのでその小ささを感じてほしい。

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靴底が汚れていないのは月齢が12か月未満だということだろう。つまりなくてもよいような時期の靴だ。だのに何って、この小ささに夫と私、キュンとしてしまってふたりで顔を見合わせて、

買ってしまったのだ。孫ができるあてもないのに‥‥


お隣の子どもたちが「 "Hello!" って言ってくれた」と嬉しそうに話す夫。

「え~っ、まだ言われてない!」と悔しがる私。

こんなに孫が欲しくてキュンキュンしている熟年夫婦がいる。 一方、そばで見守ったり可愛がったりしてやれる大人が必要な子どもたちもきっといるはずなのに‥‥


需要と供給をマッチングするサービスって必要なんじゃないだろうか‥‥

こんなにクリアな英語を話す、こんなに絵本を読んであげたい彼がいて、小さな子どもと遊びたくて、一緒になにか作りたくてウズウズしている私がいて。

キャンプをしたり森の中を探検したり‥‥

おじいちゃんとおばあちゃんを仕事と呼ぶならば‥‥ 今の私たちというペアって、ポテンシャル高くね?

「ちょっと宝の持ち腐れ」って

そんなことを考えた日‥‥






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