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#142 第一弾 モクレンのぬか漬けができました


木蓮モクレンは英語で Magnolia (マグノリア) と呼ばれる。

英国では春先の桜が咲く前に、家々の庭先で目にする花だ。
それらは大きな鳥が空を羽ばたくように咲き誇る。

青空の下、見上げるマグノリアはハッとするほど美しい。
咲き出したかと思うといつのまにかパッと散る。
あれだけの大きな花なので地上にはあっという間に厚い絨毯ができる。

一度落ちると花が変色するのも早い


堅実だけど面白みに欠ける色

マグノリアというと、英国ではPaint (ペンキ) の色の名前として広く知られた名となる。

Wilko.comのサイトからお借りしました



私たちがこちらへ移り住んだ23年前はテレビではDIY番組が真っ盛り。
視聴者たちがDIYのプロを呼んで、自分たちが出かけている間にサプライズで家の中を改装してもらう。
あるいは、来てくれたプロと一緒に家の中の問題を解決していく‥‥それらの番組は、素人でも真似のできる家の改装のアイディアをくれた。
そういえば「DIY SOS」なんて番組では、主におとうさんがやりかけたDIYの収拾がつかなくなった惨状に、プロ集団が呼ばれた。プロの完璧な仕事をカメラが追ってくれていた。

インテリアデザイナーたちは赤やオレンジ、ピンクや黄色など、寒くて暗い季節の長い英国の生活が少しでも暖かく華やぐ色を選んだ。
訪ねる家、訪ねる家、一面に塗られたマグノリア色の壁の上を、ハッとするような彩りが載せられていった。

それまでは壁といえばマグノリア全盛だったのだろう。ニュートラルな色であれば、家を売る時に一番間違いがないからだ。

英国では古くなっても家の資産価値は下がることがない。 Property ladder (不動産の階段) という言葉があり、家を買うのが初めての人を、first-time buyer (最初に家を買う人) とわざわざ呼ぶ。
家をどんどん買い替えて理想の家に近づけることが当たり前の国だからだ。
そのため、自分の所有する家でありながら、いつも『売る時』を意識しながら無難なものを選んできたのだろう。

当時のDIY全盛期において、おしゃれなインテリアデザイナーたちの影響を受けた英国民に、
「マグノリアはつまらない色」という新しい概念がもたらされたと私は思っている。
「当たり障りのない」ことで重宝されたものが途端に「Boring (退屈な)」と呼ばれ始めた。

以来、マグノリアには不名誉な肩書きがついている気がしてならないのだ。

こんな色もあるのに‥‥

近所の庭。フェンスからこぼれんばかりのピンクのマグノリア
そのお隣にもまたマグノリアが‥‥

マグノリアと一口に言っても、このようにピンクのものもよく見かける。
花の名前が色の名になっていても、その花は一種類しか色がないわけではない、そんな植物はほかにもあることにに気づく。

ライラックがそうだ。薄紫色をそう呼ぶようだが、純白のものもあれば濃い紫色のものもある。

あと2週間もすればこれくらいに咲いてくれるはずの我が家のライラック


「マグノリアを漬物にするんだって!」

ある日、帰宅した夫がそう言ったのだ。これは聞捨てならない。

なにを隠そう、私は旬の自然の植物を食すのが大好きなのだ。

今年のマグノリアの季節も、じきに終わる‥‥だけだと思っていたのに、もっと愉しむことができるですって!?

英国がロックダウンに入った2020年の春、私はこちらに住んで初めて、普段からずっと周りにあった自然の恵みを知ることができた。
毎日毎日人と集まれず、通勤も通学もなくなった家族と一緒にできたのは「歩く」ということ。
そこで、身近な30種類ほどの植物の葉っぱ、茎、根っこ、花などが食べられることを知った。

桜が咲いたら、また塩漬けも砂糖漬けもできると思っていたら、桜を待たずにマグノリアが食べられるだなんて‥‥


夫のプレゼント


その日、帰宅した夫が「手を出してごらん」といいながら
私の掌いっぱいに載せてくれたもの。
さっき職場の庭の木からそうっともらってきた、というマグノリアの花だった。
 

さっそくぬか床に入れてみることに‥‥

中心の部分は食べないようにと言われたとのこと

真ん中の雌しべと(周りの)雄しべの部分を取り除いて漬ける。

これが取った部分。あら、なんてかわいいの


そうして漬けること2日。
あの純白の花弁はとにかく変色するのが早く、漬物にしたらたちまち色は変わってしまう。

マグノリア=モクレンのぬか漬けのできあがり


意外な結果に夫とふたり顔を見合わせる。
なんというかテクスチャー(舌触り)が新鮮なのだ。感じるか感じないかくらいの苦みがあって‥‥

「これ、ほかのぬか漬けよりも相当いけるね」

これが夫の感想だった。同感である。

マグノリアの咲き誇った時の美しさはない。シワシワで色枯れした姿は、味わい深いものになるために必要な変化なのだ。
私たちにとっては親近感があり愛おしくもある‥‥

お昼の食卓で、春の味をいただいた


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