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#14 泡をすすがないイギリス人


『イギリス暮らしあるある』といえば、十人中十人が賛同するものから、わかる人にはクスッと反応されるものまでいろいろだとは思う。


ただ、数あるなかで、これだけは間違いなく上位に入る『あるある』はこれかな、と。

-イギリス人は泡が好きー

「どゆこと?」と思われる方は、以下を読んで決めてほしい。

まずは台所編。

食器洗いはシンクそのものに栓をして張ったお湯に食器用洗剤をチューっと入れて、そこに食器やカトラリーを入れる。ぶっくぶくで泡あわの中でスポンジやブラシで食器を洗う。

泡から取り上げてシンク横のステンレス台あるいは食器かごに置いていく。

おしまい。

見事に泡をかぶって洗いあがった姿は圧巻!その食器たちはそのまま乾かされるか手に取ってティータオルと呼ばれるふきんで拭きあげられる。

これに驚愕していた他国からの学生や移住者には数えきれないくらい会ってきた。

界面活性剤の入った合成洗剤は絶対口にいれたくない。たとえ比較的安全と言われる食器洗い石けんを使ったとしても‥‥

洗剤の名残がしっかり取れるまですすぎ倒すのが日本のやり方。第一洗剤のにおいが食器に残るのはゾッとするのだ。

だが「郷に入っては郷に従え」とはよく言ったものだ。人が集まって飲食する所でこうだから、私は20年という間、貝になるしかなかった。どんなに生理的に嫌なことでも面と向かって言えなかった

例えば夫の実家、例えばグループの集まりや職場で、誰かが洗えば黙って泡だらけのカップを拭く。

自分が洗うときに周りに誰も居なければこっそりすすぐ。でも誰かがそばに居たら黙って泡から上げる。

それは、お湯を出しっぱなしで洗う経済観念のない女だと思われないことのほうが、残留洗剤の議論の必要性に勝っていたからだ。

『根性』というものを長く売り渡してしまっている自分がいる。

もっとも、食器洗いといえば今どきディッシュウォッシャー(食洗機)のない家というのをほとんど知らない。ほとんど、と言ったのは、我が家がその極めてめずらしい家庭だからだ。が、それは余談である。


次は入浴編。

イギリス人はバブルバスが好きだ。蛇口の下にやはりボトッとバスバブル剤を落とせばお湯の勢いで湯船は泡で満たされる。

湯船は寝て浸れるよう細長く、浴室そのものが濡れても良い仕様になっていない。20年前にはバスルームが絨毯敷きなんていう家も珍しくなかった。

当然、湯船から出た洗い場などない。

私が学生として初めて住んだ30年前にはまだシャワーのない家もあった。当然入浴して泡だらけになった体はそのままタオルで乾かしていた。

そりゃあ他人の入浴シーンをチェックしたわけじゃないけど、子どもたちが小さい頃、義母のお風呂の入れ方はそうだった。シャワーヘッドはあったけれど、すすがなきゃという観念がなかったと思う。


そして洗濯編。

イギリスの全自動洗濯機は、任せておくと、出てくる水の量が少ない!信じられないくらい少量の水で洗い、すすぎですら水が出しっぱなしにはならない。もっともドラム式で、閉鎖された中を回っているので、縦型のものと洗い方やすすぎ方が違うといえばそうなのだが‥‥

私はうちの洗濯機を自動に任せておくと、水の量のあまりの少なさに、中の物が全て濡れきっていない状態で洗いサイクルをやっているようで、ミズカ流洗濯機操作を編み出すに至った。

全自動洗濯機の意味は薄い‥‥

私のやり方は、家人が理解するには難解すぎるらしく、洗濯は代わりにやってくれる者が居ないというデメリットもある。

日本の洗濯機は水が透明になるまですすぎをしていたはず‥‥

日本の洗濯機の一回のサイクルに使う水の量をイギリス人に見せた反応をテレビの番組にしたら面白いかもしれない‥‥と思う。


すすぎをしない文化を変だと言う前に、日本との差はどこから生まれたかを考えてみたい。


これはとりもなおさず、水が貴重だからだと思う。
日本では、無駄使いすることを「湯水のごとく使う」という表現がある。日本では水資源が豊富だったからこそ、このような表現ができたのだろう。

イギリスは上水・下水合わせて水道料金が高い。おまけに、雨が少ない年は庭木や芝生に水やりを禁止される期間もあった。だから水は大事にしなければならないことを植え付けられる。

泡の話が水の節約のためだったと言い切れるものではない。ただ少ない水で綺麗になった気になるためには『泡』への信頼が必要だったのかな、というのは私の持論である。


泡の話からの余談になるが、日本の家庭の湯船を『お母さんの子宮の中』、イギリスの湯船を『棺桶』とたとえたのを聞いたことがある。

表面積の大きい湯船に自分の体が浸かるまで水を貯めることには罪悪感がありすぎるのだ。なにしろ水が貴重な上に、溜めた水は次の人に残せない。

仰向けならお湯からはみ出すお腹や太ももがそのうち冷えてくる。そこで体を右にしたり左に替えたり、また仰向け‥‥でのローテーションでしのぐ入浴法が身について久しい。


追い炊き機能はなく、湯の表面積が大きいと来れば、お湯がぬるくなるのも早い。足元の蛇口から少しずつ高温のお湯を出しながら入る。

日本では体が芯からあったまるのがお風呂なら、私のお風呂は上がって体が冷えていなければ大成功なのだ。

ああ‥‥

お母さんの子宮のようなお風呂で、湯水のように湯を浴びたい!

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