#140 アート界の姫、カリーナ降臨 世界ダウン症の日④
カリーナは年齢がきわめて分かりづらいダウン症の仲間内でも、とりわけ年齢不詳な女の子。
10代にも20代にも見えた。30くらいだったのかなとも思うけれど、
そんなことはあまり大事じゃないのだ。
施設でもピカイチクリエイティブで、その才能はとどまるところを知らない‥‥
福祉界隈でカリーナを知らなくても、カリーナのアート作品を知らないと言う人はいなかったと思う。
彼女はちっちゃくてころんとしていて、とぼけているのにめちゃくちゃクール。
どの写真を見ても、ひとつとして同じ表情がない。
孤高のアーティスト、カリーナ。
カリーナは人のなかに居たいとか、人から良く思われたいというような色気はない。
彼女には、好きでたまらない女性スタッフがいた。そのスタッフが時々、絵のモチーフになることもあった。
私が一番好きだったのはこのサボテンのジャングルの絵だ。
北欧のデザイナー、マリメッコやオーラキーリーを思わせるようなこのおしゃれさ。
このモチーフが壁紙になったなら、泣いて喜んでしまうだろう。
作品の中に、かのスタッフの名前が無造作に入っている(笑)
どうしてだかいつも真面目にふざけている。
どうやったらあれだけの作品が次々と生まれるのか、彼女の思考の一部でもいいから覗いてみたいと思う。
もう十年近く前になるが、カリーナの個展が開かれるというので、平日の休みの日にひとりで観に行った。
本来は、仲良くしている利用者さんだから観に行ったという軽い動機だったはずだ。
なのに、展覧会というのは『その場に立つことでしか分かり得ない』不思議な力があることを知った。
お客さんは私ひとり。一目で見渡せる店内で、店主の淹れてくれた美味しいモロッコ珈琲をいただく。
見慣れたはずのカリーナの絵が、額に入ってしゃんと姿勢を伸ばしていた。
そこにはいつもはすっとぼけたカリーナが、輝くアーチストとして胸を張って存在していた。
もちろん、「障害者が描きました」とも「アーティストにはダウン症があって‥‥」とも表示されていない。
一枚一枚の彼女の作品が、堂々とその魅力を放っていた。
妹の晴れがましい舞台を誇らしく想う姉‥‥
そのような感慨に私はふけったのだ。
娘になったり姉になったり忙しい‥‥ (前投稿 #139参照)
カリーナは無毛症だったのかもしれないと今思う。
実はそんなこと気にしたこともなかったのでスタッフに確認していない。
彼女のカツラとベースボールキャップはいつもセットのようなものだったんだ。
これも私の想像だが、カリーナの家族が娘を想い、カツラと帽子は人前で外さないように、と言い含めていたのじゃないだろうか。
帽子を脱いだことすらないカリーナが、ある日、とうとう失敗しちゃってカツラごとすっぽり抜けたことがあった‥‥
一瞬「どうしよ」と凍り付いた私の前で、
「ぶぁははははっ‥‥」
と愉快そうにした後、
わざとつるんるつんの頭で、
しばらくにやにやし続けたカリーナは
果たして『天使』だったのか『策士』だったのか‥‥
忘れられない魅力キャラを持った天才だったことは間違いない。
最後まで読んでいただきありがとうございます。スキのハートは会員じゃなくてもポチっとできます。まだまだ文章書くのに時間がかかっておりますが、あなたがスキを残してくださると、とっても励みになります♥