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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#114

21 大阪会議(4)

 馨は着替えをしに、荷物をおいている定宿に戻り、またでかけていった。そして陸奥とかかれた表札の家に入っていった。
「陸奥くん、すまん、井上じゃ」
夫人が出迎え、書斎に案内していった。
「あぁ、井上さん。お久しぶりです。そちらにお座りください」
「木戸さんにはお世話になって、ご相談にもあずかったのに、結局大蔵省をやめてしまいました」
「それでも、わしが止めていた金納を、やり遂げておったではないか。素晴らしいものじゃ」
「井上さんの会社も、なかなかおもしろいことをおやりだ。米をイギリスに売ったかと思えば、今度は銃器の輸入、手広くおやりですな」
「そげなことはええんじゃ。本題に入るぞ」
「なんなりと」
「陸奥くん、おぬしは土佐の民権派ともつながりがあろう。先程出された民撰議院設立建白書に、名を連ねた者に会ってみたいと思っての」
「井上さんが民権派とお会いになるとは。なにか面白いことでもありますか」
「そげなことはわからん。ただ民権派のイギリス帰りという小室信夫、古沢滋の二人にあってみたいんじゃ」
陸奥はゆっくり目を閉じて、ゆっくり開けた後言った。
「わかりました。その二人ならば大丈夫です。引き合わせることできます。ただし条件が」
「条件?」
「私もその企みに参画させてください」
「まだ、なにも企んどらんよ」
「まだ、ですね。楽しみにしてます」
「商売ですか、坂本さんを思い出します」
「坂本龍馬か」
「そうです。私は坂本さんのもとで活動してましたから」
「直接は会ったことはないが、四境戦争の前色々と、骨折りいただいたのは忘れられんの」
「そうでしたか」
ふたりは庭を眺めなら、思いを馳せていた。
「長くなってすまんの。それでは連絡をまってええんじゃな。今は横浜の此処じゃ」
「はい、たしかに」
「これにて、帰るとするか」
馨は陸奥の家を後にした。

 横浜の家から、銀座のレンガ街のビルの事務所に、出勤する日が続いていた。自分で計画した街のビルを、買うことになるとはと考えると愉快だった。
「日本にはなじまないと言われたが、結構ええじゃないか」
それを余り言うと、事務員たちにうるさがられるので控えていた。机の上は米の相場の表や金銀の海外のレート、たくさんの表と数字に囲まれていた。
「井上さん、アーウィンからの文です」
そう言いながら、益田が飛び込んできた。
「イギリスの羊毛製品のブランケットを、日本に卸す代理店をやってほしいとのこと。これを受けようと思ってます。いいですね」
「ええんじゃないか。これからの国内の不安を思えば、軍に売り込めそうじゃ」
書類箱の文を見ながら、馨が答えていた。その一つを開けたとき
「益田、7日後大阪に行くことにした。よろしゅう頼む」
 陸奥からの文だった。7日後、小室信夫と古沢繁が大阪に向かうため船に乗るというのだ。その便名も書いてあり、同じ船に乗ろうと決めた。木戸さんにも会いに行けるし、申し分ないと思った。その前日は大久保が条約を締結して、帰国の日でもある。

「あぁ俊輔おったか」
「俊輔おったか、じゃないだろう。先日の茶屋代僕が持つと」
「まぁええじゃないか。久しぶりに思いっきり楽しめたんじゃ」
「あれが大久保さんの船か」
「ブリッジが降ろされたから、じきに出てくる」
「大久保さん出てきたの」
「大久保さんお疲れさまでした」
博文と大久保が握手した。そして大久保はその隣りにいる馨に気がついた。
「これは、井上くん。迎えに来てくれるとは」
「お疲れさまでした」
そう言って、二人は握手をした。大久保が視野から消えると、馨はボソッと呟いていた。
「いい気なもんじゃ。50万両もらうのにいくらかけたことだか」
 博文はこの二人は、まだまだ遠い存在だと気がついた。大久保と木戸だけではなかった。
「あぁ俊輔。わしは明日から大阪じゃ。朝早いからこのまま港近くの宿でねる」
「わかった。また会おう」

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