マガジンのカバー画像

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ 明治維新編

89
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ の明治維新編をまとめます。
運営しているクリエイター

2022年3月の記事一覧

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#54

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#54

12 神の行く末(1)

 公儀の直轄領だった長崎は、鳥羽伏見での敗戦を受けて奉行が退去していた。そのため、無政府状態だったところ薩摩、長州、肥前、土佐といった長崎にいた藩士たちがとりあえずの行政機能を担っていた。その状況の改善が朝廷に働きかけられ、九州鎮撫総督の沢宣嘉の参謀として聞多は長崎に赴任することになった。
 総督府や裁判所(県庁)を開庁し、行政機能を図ることになった。五箇条の御誓文といっ

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#55

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#55

12 神の行く末(2)

 気分転換と机の上に長崎の周辺の地図を広げた。ジリ貧の財務を考えると、収益の手を考えなくてはならない。この近隣で金を生むことができるもの。炭坑や鉱山があればそこまで知行地を広げて行ければ何とかなるはずだ。そこまで考えたところで、部屋を出ようとした。廊下には人影が見えた。大隈が去っていっていた。
「また大隈じゃ。見張られているようじゃの」
思わず部屋に引っ込んでしまった聞多

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#56

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#56

12 神の行く末(3)

 聞多にとってこの大坂行きは、大隈と親しくなる良い機会になった。そのまま二人で宿舎となる宿に到着した。宿に着いた聞多を待っていたのは木戸からの文だった。その文を読んだ聞多は木戸のもとへ急いだ。
「そう急がずともよいだろ。明日には俊輔もつくようだし」
「俊輔がおらんほうがええんです。わしはほんとうの意味では、厳罰は望んではおらんのです」
「どういうことだ」
「イギリスで見た

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#57

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#57

12 神の行く末(4)

 木戸が切り出したところで、皆で席を立って、動いた。聞多は大隈と並んで歩いた。
「くま、どうじゃ。うまくやれそうか」
「木戸さんとおぬしとのやり取りいつもああか」
「そうじゃ、堅苦しいのなしじゃ言うとったじゃろ。でも、結構気難しいぞ」
「おぬしには言われとうなかだろ」
「そうかの」
聞多がケラケラ笑いだしていた。
 そうこうしている間に行在所についた。門から入ると「聞多」

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#58

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#58

12 神の行末 (5)

 料亭に入り、聞多が色々注文をした。料理が運ばれると聞多と俊輔は酒を飲み始めた。
「聞多、長崎はどうなんじゃ」
「まぁ、どこもそうじゃろうが金がない事にはの。何もできん」
「神戸の方は外国人との間のいざこざが多くて大変じゃ。攘夷など無意味だと通知を出しただけじゃ変わらん」
「おまけに贋金もあるしの。しょっちゅう外国人商人からねじ込まれて、頭の痛いことばかりじゃ」
「やは

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#59

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#59

12 神の行末 (6)

 聞多は木戸に会議の終わったあと、控えの間で待っていてほしいと言われていた。外を眺めて待っていると、木戸が入ってきた。
「すまん、待たせた」
「いや、それほどでも」
「実は、このあと長崎に行きこの件の説明をすることになった。そのついでにというか山口にも行って、新政府出仕者の帰藩が認められないことについても説明して来ようと思っている」
「殿には義理が立たぬことになってしまう

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#60

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#60

13 貨幣の重み(1) 木戸が長崎を去った頃、キリシタンの送致に気づいた外国の公使たちが抗議に押しかけてくるということもあり、なかなかこの問題も静まることができなかった。
 その上資金不足が顕著になってきた。新政府になって一番の問題は金がないこと。東北の会津や佐幕藩の征討についても、金がなく軍を動かせない状態があった。少しでも政府に金を作ろうと、太政官札を運用してみた。しかし使える地域は限られてい

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#61

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#61

13 貨幣の重み(2) もうひとつこの旅で見つけられたものがあった。下関から船で門司にわたり、陸路で長崎を目指していた。途中で寄った博多の街で、つい骨董品屋を眺めてしまった。
 「これは、良さげなものがありそうじゃ」
するとそこにあった、素晴らしい染め付けの五客の器と目があってしまった。こんなに目が離れていかない感覚は初めてだった。
「うーん、目が離せない。どうやっても目がいってしまう」
「この値

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#62

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#62

13 貨幣の重み(3)
 製鉄所の方も壁にぶつかっていた。
「どういうことじゃ。まだ規則案が提出されておらん。速やかにしろと言ったはずだ」
「それは、事業所内の廃刀とは。あの」
所長が歯切れの悪い答えをした。その物言いが馨の気持ちの糸を切った。
「士だと威張ってどうなる。町人だと侮っておるから、製鉄所の空気が淀むのじゃ。皆で力を合わせてやる算段を考えろと申している」
「わかりました」
「良いか、一

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#63

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#63

13 貨幣の重み(4)
 また殿を始めとする藩主への根回しもほぼ済んで、版籍奉還が決定されることになった。ただ問題の知事の身分については、世襲制で決定しようとされていた。木戸と俊輔と歩調を合わせて辞職願を出して、世襲制反対の意思を明らかにしてほしいとあった。俊輔からも同様の文が来ていた。聞多は同意する旨と辞職願を木戸に当てて送った。
 同じ頃、山口の吉富から文が来ていた。はるが無事子を生んだとあっ

もっとみる