雨の匂い

雨の日の匂いが好き。

あの愛おしくて涙が溢れそうになる匂い。

溢れかえる人達に押し潰されながら
濡れた傘やランドセルで
お互いの濡れた服を濡らす。
自分はあまり濡れていないのに。
あぁ。また前髪が崩れるなぁ。
ガラスに映る自分の顔を眺めて
そんなことを思いながら、電車に揺られる。

扉を開いた途端に
ムワッと木の濡れた匂いに包まれる。
汗ばんだ身体を下敷きで仰ぎながら
湿度の高い教室で国語の授業を受ける。

好きだったあの人に手を引かれながら
濡れちゃうねって笑って雨の中走った。
楽しくて嬉しくて
水溜まりも私の心も跳ねながら
この人とずっと一緒にいたいと
頼りない背中を見ながら静かに誓った夜。

しばらくして、貴方との最後の日。
その日もまるでドラマのように
大雨だった。

私元から去ろうとする貴方に

行かないで 
戻ってきて
離れないで
私を置いて行かないで
ずっと一緒にいるって約束したのに

と心の中で叫びながら
貴方に愛してるを告げた。

そして、貴方1人で幸せになることがないよう
純愛故の呪いもかけた。

元々川の近くに住んでいたこともある
川と雨の混ざった匂い。
家の中で泣き疲れて
冷たい床に横になりながら
動かない身体と頭を冷やす。

ひとしきり泣き終えて
泣こうと思えば泣けるが
泣くことも面倒くさくなった。
火照っても冷たくもない空っぽの身体の体温が
全て地面に伝わり奪われる。

私の魂ごと吸い取ってくれたらいいのに。

雨の音を聞く
最初は大きな硬い葉っぱに大粒の雨が落ちる

パチッ、パチッ。

重い雨。
トトロの雨の始まりみたいなだなぁ。
喪失感に満たされた回らない頭で
なんだかそんなことを考えていた気がする。

すぐに軽く細かい雨が次から次へと後を追うように

パラパラパラパラ

数え切れないほどの車が大雨の中
忙しなく水溜りを蹴る。

中に砂が入った波の音を出す楽器

なんだっけ、名前が思い出せないけど
一台ずつ通りすぎる度にそんな音がしていた。

雨の日の匂いが好き。

あの愛おしくて涙が溢れそうになる記憶達を
忘れさせてくれない匂い。

私の大事な想い出を包み込んで
思い出させてくれる懐かしくて寂しい匂い。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?