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内容では勝っていた――連載「棋士、AI、その他の話」第27回

 永瀬拓矢の名局、になるはずだった。
 2023年10月11日王座戦五番勝負第4局、永瀬拓矢王座(当時)-藤井聡太竜王・名人(当時)において後手の藤井が勝利し、通算成績を3勝1敗として王座を奪取、前人未踏の八冠を達成したことは周知のことである。特にこの対局、最終盤に大逆転が起こったことは有名であろう。永瀬は最終盤に至るまでの大半の時間を優勢に進めていた。後は着地を決めるだけ、というところで永瀬は信じがたいミスを犯し、たった一手で勝勢から敗勢に追い込まれた。そして実は第3局においても同様の大逆転が発生している。どちらの局も、内容は永瀬が圧倒していた。序盤で作戦勝ちし、中終盤をミスなく進め、AIの評価値が90%を超えるところまでいった。そこから落手を指してしまったのは、もちろん藤井の勝負術や圧によるところが大きいが、しかし控室の棋士や解説陣は容易に正着を見つけているのだから、永瀬自身が一人で転んだという側面も大いにある。つまり単純に藤井の力が逆転を引き起こしたという形ではない。結局、一局を通して藤井に良いところはあまりなかった。主役は常に永瀬だった。永瀬は勝っていたのだ、少なくとも内容では。

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