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棋士と棋士が結婚する――連載「棋士、AI、その他の話」第30回

 野月浩貴八段と渡部愛女流三段が結婚を発表した。二人は事実上の師弟関係として昔から有名だった。2010年代後半、渡部は棋戦優勝こそあったものの、タイトル挑戦には手が届かない日々が続いていた。このまま平凡な女流棋士として終わるのか。悩んだ末に、渡部はある同郷の棋士にメールを送った。タイトルを獲得するために、どうか将棋を教えてほしい、と。やがて届いた返信にはこう書かれていた。「将棋の何を教えて欲しいのですか」。それが野月と渡部の、棋士になってからのファーストコンタクトだった。
 野月は誠実に対応した。かねてから興味のあったサッカーのコーチング手法を将棋に適用する「実験台」(本人談)として、渡部に深く局面を考える鍛錬を課した。渡部はこれまで一つの手しかないと思っていた局面の奥に無数の手が広がっていることを知った。2015年に5割強だった勝率は、たったの一年で8割近くまで上昇した。それはほとんどあり得ないような成長だった。
 2018年3月、渡部はついにタイトルの挑戦権を手にした。待つのは絶対王者・里見(現在は福間)香奈だ。

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