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プロはアマチュアに負けてはいけないのか?――連載「棋士、AI、その他の話」第13回

 2015年10月25日。増田康宏四段(当時)が投了した瞬間、その日は記録されるべき日となった。勝ったのは稲葉聡。アマチュアの棋士だった。
 加古川青流戦は若手の登竜門とも呼ばれる早指しトーナメントだ。プロ棋士四段、三段(成績上位者)が参加者の中心となるが、その他に2名の女流棋士と2~4名のアマチュアに参加枠がある。アマは選抜大会を勝ち抜くか、兵庫県のアマ名人になると参加資格を得られる。プロと公式に戦えるということもあり、当然激戦になる。勝者はアマでもトップクラスの強豪ばかりだ。
 稲葉聡は2015年、選抜大会で優勝し加古川青流戦への切符を手にした。当時彼は朝日アマ名人戦という全国大会で優勝しており、アマチュアの頂点とも言える存在だった。初戦の石川優太三段(当時)戦を勝利すると、今泉健司四段(当時)、宮本広志四段(当時)、渡辺大夢四段(当時)、甲斐日向三段(当時)といった面子を立て続けに倒し、決勝三番勝負の舞台にまで上り詰めた。宮本四段、渡辺四段が後にC級1組に昇級していることも考慮すると、強敵揃いのメンバーだったと言える。そして決勝の相手は増田四段。当時17歳。現役最年少棋士だった。増田は2014年10月にプロ入りするとすぐに頭角を現し、竜王戦では6組決勝まで進んでいる。その勢いのまま加古川青流戦も決勝に進出した。将来を大いに期待される、若手のホープだった。
 決勝は2日にわたって行われる。初日に1試合、翌日午前に1試合。1勝1敗の場合は午後に3局目。最初の1局は増田が勝った。稲葉は途中まで優勢に進めていたが、相手の猛攻を受け切ることができなかった。だが続く第2局で稲葉は一勝を返す。混沌とした終盤を何とかしのぎきって得た勝利だった。これで、最終戦だ。

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