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『トヨタ 中国の怪物』

昨今、グループ会社で不正が相次いで告発されるなど何かとざわつきの多いトヨタ。出版業界ではダイヤモンド社が提訴されたり、メディア露出の主戦場をオウンドメディアに移したり、とその本当の姿は見えづらくなっています。
トヨタの中国進出の裏側を、中国事務所総代表という地位にいた服部氏が語ったというのがこのノンフィクション。普段こういったノンフィクションはあまり触らないのですが、最近のトヨタ動向を見ていて「豊田家」というものにちょっと興味を持ったいたので手に取ってみました。

表紙、装幀が企業のドロドロっぷりを感じさせますが、意外にもその辺はあっさり書かれています。ただ、行間からは服部氏が人生を捧げたトヨタへの愛憎の思いが伝わってきますが。
本の大半を占めるのが中国に生まれ、筆舌に尽くしがたいほどの苛烈な子ども時代を送った服部氏の半生でした。ここがとにかくすごい。
子どもの頃は日本人であることを理由にいじめを受け、文革時代には強制労働をさせられ…と悲惨な描写が次から次へとやってきます。

特に文化大革命の章はひどかった。”多くの虐殺が行われた”くらいの歴史はわかっていましたが、服部さんの語るものは、その時代を生きた、そして死んだ一人一人が数字でなく人格として浮かび上がってくるようでした。言葉もありません。

最近、働き方改革もあり「若い頃猛烈に仕事をする」という経験をしづらくなっています。確かに私も昔はめちゃくちゃ働いたなーと思う時代もありました。先輩たちからもそんな話を聞いてきました。
が、そんなレベルじゃないです。こういう「猛烈」を超える「苛烈」を知っている世代が日本の高度成長期を支えてきたんでしょう。
「ちゃんとした生活をしたい」「楽しみたい」人によっていろいろでしょうが、ここまで自分たちを突き動かせる何らかの”欲望”があった時代だったのだろうな。と思います。一方、それがなくなったときこの国はどうなるんだろう。
そんなことを考えながら読んでいたときに目に入った第6章のこの言葉が心に残っています。

我々技術者はただ製品を作ればいいという訳ではない。昨日より良い製品を作り出すことを目標にしている。そのために必要なのは、よく準備した計画であり、その計画を実行する力、そしてできたものを確認することだ。

194Pより

不良品を恥じるのではなく、どうやって改善していくのか。次から出さない事が大事、と。それが「日本の技術者の当たり前の事」と書かれていました。
本作りや販売にもそのまま適用できる話だと思い、しおりを挟んでいます。

トヨタは新時代になり、奥田時代の功績が語られる事がほとんどなくなったそうです。多くの企業が真似するトヨタという企業が、どうやってここまできて、ここからどうなっていくのか。また、中国というのがどういう国なのか。本から様々な興味を沸き立たせてくれる1冊でした。

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